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連載『成人発達理論で考える部下の育て方とリーダーの成長』はこちら。
【おすすめ記事】リーダーは自分の能力を「できる」「できない」で判断してはいけない
成長とは「ものの見方のOS」が書き換わること
これまで本連載では、カート・フィッシャーやロバート・キーガンの理論を通じて、人の成長を「できること」や「意味づけの枠組み」という観点から捉えてきました。スザンヌ・クック=グロイターの自我発達理論は、この流れをさらに一歩進め、「人はどのような現実を生きているのか」という認識そのものに焦点を当てた理論であるといえます。
この理論の核心は、人の発達とは単に知識やスキルが増えることではなく、「世界の見え方そのものが変わること」と捉える視点にあります。言い換えれば、ここでいう自我とは、私たちが無意識のうちに用いている「ものの見方のOS」(意味づけの枠組み)であり、そのOSが書き換わることが発達につながるのです。
この視点に立つと、同じ出来事に直面しても、人によってまったく異なる現実が立ち現れる理由が見えてきます。ある人にとっては単なる業務上のトラブルが、別の人にとっては自己否定の危機として捉えられることもある。この違いは、能力や努力の差ではなく、「どのような意味づけの枠組みで世界を見ているか」によって生じているのです。
しかし、多くのリーダーは、自分自身がどのような枠組みで世界を見ているのかについて、明確な基準を持っていません。「もっと視野を広げたい」「まだ成長できるはずだ」といった自己評価をしばしば耳にしますが、多くの場合、自己評価は知識の量や経験の幅、成果の大きさといった表層的な指標に依存しています。実際の意思決定や対人関係に決定的な影響を与えているのは、そうした要素ではなく、「何を現実として見ているのか」というより深いレベルの構造です。
ここで重要になるのが、成長には異なる2つの方向性があるという点です。一つは、新しい理論を学び、経験を積み、対応できる状況が広がるという「横方向への成長」です。こうした成長を通じて、同じ前提の下で扱える対象が増えていきます。もう一つは、何を優先し、どのように意思決定を行うのかという判断の基盤自体が組み替わる「縦方向への成長」です。これは、認識の前提そのものが変化する成長です。
リーダーとして直面する複雑な課題の多くは、知識やスキルが増える(横の成長)だけでは十分に対処できません。「正しい答えを出さなければならない」という前提を持つリーダーは、不確実性の高い状況において過度に結論を急ぐ傾向があります。一方で、「多様な視点をすべて理解することが重要だ」という前提を持つリーダーは、意思決定のタイミングを逸することがあります。どちらも能力の問題ではありませんが、自分がどのような前提で物事を見ているのかに気づかない限り、同じ判断パターンを繰り返し続けることになります。
このように見ていくと、自己評価の意味もまた大きく変わってきます。重要なのは、自分がどの発達段階にいるのかを特定することではありません。自分が当然としている前提に気づき、それがどのように判断や行動を形づくっているのか理解することにあります。
クック=グロイターの発達段階理論は、人を固定的に分類するためのラベルではなく、「現在どのような意味づけの枠組みが優勢に働いているのか」を理解するための地図です。発達とは、「より多くを知ること」ではなく、「どのように見ているのかに気づくこと」である。その視点に立った時、リーダーの自己評価は、認識の構造そのものに働きかける実践へと変わっていくはずです。
リーダー層に多く見られる発達段階の全体像
クック=グロイターの理論では、人の意味づけの枠組みは段階的に発達していくとされます。
ここでいう発達とは、知識量や能力の向上ではなく、自分自身や他者、組織、社会をどのような枠組みで理解しているかという「意味づけの複雑性」の変化を指しています。発達が進むにつれて、物事を一つの正解で捉えるのではなく、複数の視点や価値観を同時に考慮しながら判断できるようになります。
クック=グロイターは、成人以降の発達を主に次のような段階として整理しています。
特に組織においてリーダー層として活躍する人の多くは、おおむね段階4以降に位置していると考えられます。
本稿では、その中でも実務において頻繁に観察される段階4を含め、リーダーのさらなる成長の指針になるであろうさらに高度な段階を含め、合計5つの段階に焦点を当てます。段階の名称はやや抽象的に感じられるかもしれませんが、それらは「世界がどのように見えているのか」を示すものとして捉えてください。
ここで重要なのは、これらの段階が単なる「レベルの高さ」を示しているわけではないという点です。それぞれの段階は、それぞれの現実の見え方と、それに対応した強みと限界を持っています。たとえば、段階4の明確な意思決定力が必要とされる場面もあれば、段階5の統合的な視点が不可欠となる場面もあります。
したがって、自己評価において問われるべきは、「自分はどのような見え方の中で意思決定をしているのか」、そして「その見え方によって、何が可能になり、何が見えなくなっているのか」という問いなのです。
リーダー層に多く見られる5つの発達段階の特徴
ここからは、それぞれの段階が持つ世界の見え方と具体的な特徴を見ていきましょう。まずは、多くのリーダーが到達し、同時にその枠組みによって制約も受けている段階4から考えていきます。
①段階4:合理的-自己著述的段階
段階4は「合理的-自己著述的段階」(rational-self-authoring)と呼ばれます。段階4に到達したリーダーは、それ以前の段階と比べて大きな飛躍を遂げています。それは、外部の期待や評価に依存するのではなく、みずからの内側に判断の軸を確立している点にあります。
この段階において、人は「自分は何を大切にするのか」「どのような原則に基づいて行動するのか」を明確に言語化できます。そして、その原則に基づいて意思決定を行い、責任を引き受けることができるようになります。これは、組織において極めて重要な能力です。
実際、多くの企業で「優秀なリーダー」として評価される人物は、この段階の特徴を色濃く持っています。戦略を描き、目標を設定し、合理的に判断を下し、組織を一定の方向に導く。この一貫性と主体性こそが、段階4の最大の強みです。
また、この段階のリーダーは、複雑な情報を整理し、筋の通ったストーリーとして構築することにも長けています。自分なりのフレームワークを持ち、それに基づいて現実を解釈することで、曖昧な状況の中でも意思決定を可能にします。この能力は、不確実性の高い環境において特に重宝されます。
しかし、この強さは同時に、特有の限界を内包しています。
段階4のリーダーは、自分の中に確立された原則や枠組みによって世界を理解しています。そのため、その枠組みの内部においては非常に高いパフォーマンスを発揮しますが、その枠組み自体を問い直すことは容易ではありません。
たとえば、「論理的であることが最も重要である」という前提を持つ場合、感情や関係性の要素は二次的なものとして扱われる傾向があります。また、「正しい戦略を立てることが成果につながる」という信念が強い場合、その戦略がどのような前提に基づいているのかを相対化することは難しくなります。
ここで生じるのは、「他者の視点を理解はできるが、統合することはできない」という状態です。異なる意見に対して論理的に反論できる一方で、その意見が成立している文脈や前提を自分の枠組みに取り込むことは容易ではありません。
その結果、組織において、次のような現象が見られることがあります。部下の意見を「聞いてはいる」が、最終的には自分の考えに収束させてしまう。あるいは、多様性を尊重しているつもりでいても、実際には自分の基準で評価し続けている。これらは意図的なものではなく、あくまでその段階の見え方に由来するものです。
さらに、この段階のリーダーは「正解志向」に陥りやすい傾向もあります。みずからの枠組みの中で最も合理的な答えを導き出そうとするため、不確実性や曖昧さを長く保持することにストレスを感じやすくなります。その結果、結論を急ぎすぎたり、複数の可能性を十分に検討しきれなかったりすることがあります。
このように、段階4はリーダーシップにおいて非常に強力な基盤である一方で、その強さゆえに見えなくなるものも存在します。重要なのは、この段階を否定することではなく、その前提を自覚することです。







