-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
リーダー候補者の育成方法が変化している
ある静かな変化が組織の中で起きている。かつて従業員のトレーニングの機会となっていた業務が、AIによって自動化されつつあるのだ。以前は、文書内の説得力が弱い部分を見つける作業、曖昧なデータを解釈する作業、ステークホルダーの懸念を予想する作業を繰り返し行うことによって、判断力が培われていた。経験を重ねることで、直観が養われた。しかし、そうした段階を取り除いてしまえば、能力を身につける場が失われる。
これは重大な構造上のリスクだ。もしプロフェッショナルとしての判断力を養うための入り口がなくなれば、リーダーシップのパイプラインも失われてしまうだろう。オンデマンドの学習プラットフォームや単発のトレーニングセッションでは、このギャップを十分に埋めることはできない。そうしたプログラムでは、経験豊富なリーダーの実際の思考に触れることを通して蓄積される判断力、パターン認識、プロとしての直観、暗黙知を伝えることはできないのだ。
筆者は、CHRO(最高人事責任者)をはじめとするCレベルのリーダーをコーチングする中で、いつも同じ切実な問いを耳にする。「より強固なリーダーシップパイプラインを築くためには、どのように従業員の能力開発を促進すればよいのか」というものだ。それに対する答えとして、真の変化をもたらし、組織全体に展開できる取り組みが一つある。それは、メンタリングだ。その投資対効果は、十分に実証され、研究による裏づけもある。
ただし、問題もある。従来のメンタリングモデルは、すでに実地体験を通して基礎的な学習が行われていることを前提としている。だが、その前提はもはや通用しない。人材管理を担当する経営幹部は、このAI時代の新たな環境では、メンタリングを一から設計し直さなければならないことに気づいている。ただリーダーシップ開発を加速させればよいという話ではなく、AIの導入によって失われた経験的な土台を取り戻すことでもあるのだ。
AI時代に合ったメンタリングを再設計する
最初のステップは、今日の上級リーダーに求められる能力を定義して、最も重要な領域にメンタリングの重点を置くことだ。たとえば、批判的思考、プロフェッショナルとしての判断力、パターン認識、積極的なコミュニケーション力、ステークホルダーマネジメント、優先順位づけ、曖昧な状況に対処する能力などが挙げられる。必要な能力が明確になったら、それらを意識的に育成するメンタリングの仕組みをつくる。以下では、この移行をうまく進めてきた企業に共通して見られるパターンを紹介したい。
期待値を明確にする
メンタリングをオンボーディングや能力開発プログラムに組み込み、一定のサイクルで実施する。実際の成果物と結びつけるとともに、実施頻度、重点事項、育成すべき能力について明確な期待値を設定する。実際には、「何」が期待されるかをあらかじめ具体的に定めておくということだ。このメンタリングでは、どの能力を伸ばすことを目的としているか。30日、60日、90日が経過した時点で、どのような進展が期待されるか。能力の向上を確認するために、メンターとメンティはどれくらいの頻度で会って、何を話し合うか。
メンターとメンティの関係が漠然としていて、両者が成果はおのずと生まれると思い込んでいると、メンタリングはやがて方向性を失ってしまい、結局は実りのないまま関係が消滅してしまうことが多い。成果を生み出せるのは、体系的に設計されたメンターとメンティの関係だ。関係を始めるたびに、1ページの簡単な合意書を作成し、そこに目標、獲得あるいは強化すべき能力、ミーティングの頻度、両者が果たすべき約束を記そう。明確な合意があってこそ、メンタリングの方向性、関係、そして結果が変わってくる。
メンターにインセンティブを与える
組織が本当にリーダーシップのパイプラインを重視しているなら、それを構築するリーダーも正当に評価しなくてはならない。具体的には、進捗のスピード、意思決定の質、批判的思考、部署を横断して成果を上げる力を経時的に追跡し、メンタリングの成果を業績評価に反映させる必要がある。
各上級リーダーの年次評価にメンタリングの項目を取り入れよう。ただ「誰かのメンターを務めましたか」と聞くのではなく、「あなたが育成した人々はどのように成長しましたか、それを裏づける証拠は何ですか」と質問する。さらに、チームミーティングやリーダーシップフォーラムで、メンターを公に表彰することで、経営陣のメンタリングプログラムに対する熱意を示すことができる。
最後に、誰もがメンターになってほしいと望む優秀なリーダーが、メンタリングの時間を確保できるようにサポートしよう。時間を確保しておかないと、メンタリングは緊急性の高い業務に押され、後回しになりがちだ。そうしている間にも、人材パイプラインは静かに縮小していく。
サポートを提供する
年齢や経験、地位に比例して、コーチングやメンタリングのスキルが身につくわけではない。上級リーダーが皆、メンターシップに必要なコーチング型のリーダーシップスタイルを身につける訓練を受けてきたわけではないからだ。リーダーには、フィードバックを与え、効果的な質問を投げかけ、単なる成果物のつくり方ではなく判断力を育て、率直な意見交換ができる心理的安全性をつくり出すためのスキルが欠かせない。「あなたがすべきことは、これです」という指示型のスタイルではなく、「あなたなら、どうしますか」というコーチング型のスタイルで効果的に質問する方法を学ぶ短時間のワークショップも、メンタリング関係の発展に明確な違いをもたらす。







