新規事業進出の意味

 このような日本郵政グループの財政状態を考えると、金融2社が新規事業を開始するのは半ば必然であるように見える。国債を主とした運用をしているかぎり、かなり純粋なかたちで金利リスクを負うことになる。変動金利の住宅ローンや短期の企業向け貸し付けの割合を増やせば、金利リスクをある程度、緩和することが可能である。金利リスクを抱えたままの金融部門の規模拡大路線は、短期的には魅力的に見えるかもしれないが、中長期的には間違った道であると考える。その意味で、新規事業への参入はどうしても必要である。

 しかし、信用リスクを取る融資には、審査能力が必要とされる。これは、一朝一夕で涵養できる能力ではない。与信にあたってスコアリング・システムを導入するにしても、システム投資のほか、ある程度の試行錯誤の期間が必要だろう。現実的には、審査能力ある人材を外部から雇用するほかはない。そのような人材が、既存の日本郵政の報酬体系では雇用できないのであれば、別会社を設立して、従来とはまったく別の成果主義のシステムで、新規雇用をする必要も出てこよう。

 あるいは、ゆうちょ銀行は、資金集めに特化して、資金運用を他の金融機関に委ねるという方策もありうる。ゆうちょ銀行の新規事業参入に対して、民間金融機関の反対が強い情況では、ある種のプロフィット・シェアリングは現実的な解かもしれない。

日本郵政上場の対価

 現在、日本郵政を上場したら、どれくらいの対価が得られるだろうか。2012年10月31日現在、三菱UFJフィナンシャル・グループの株価純資産倍率(PBR)は0.51倍、みずほフィナンシャルグループは0.61倍、三井住友フィナンシャルグループのPBRは0.63倍である。

 日本郵政の純資産は10.9兆円なので、単純に倍率をかけるPBRマルチプル法で評価すれば、日本郵政の時価総額は5.6兆円から6.9兆円程度と考えられる。持分の3分の2を売却すると仮定すると、調達資金は3.7兆円から4.6兆円程度ということになる。十数兆円の東日本大震災復興債の償還原資としては、いささか心許ないというべきであろうか。