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現代のビジネス・リーダーには成長や利益の創出などの経済価値のみならず、社会価値の実現も求められている。両筆者は1995年に『知識創造企業』を上梓し、知識が継続的なイノベーションを促し、持続可能な競争優位をもたらすことを指摘した。ここで形式知と暗黙知という2つの知識が論じられたが、いまのビジネス・リーダーは、第三の知識である「実践知」を身につけなければならないという。実践知の起源は、アリストテレスが分類した3つの知識の一つ、フロネシスにあり、「賢慮」とも訳される。実践知は経験から得られる暗黙知で、価値観や道徳を手がかりに、冷静な判断を促し、状況を踏まえた行動ができるようになる。組織でこのような知識を育成できれば、リーダーは知識の創造のみならず、見識ある判断が可能になる。筆者は、日本企業を中心に調査を実施し、こうした賢慮のリーダーが持つ6つの能力について、ホンダの創業者、本田宗一郎やファーストリテイリング会長兼社長の柳井正などの事例を交えて論じている。
無力なリーダーシップ
「断絶」が繰り返される時代にあって、組織を賢く統率する能力は消え失せたに等しい。世界じゅうのあらゆる知識をもってしても、2007年の世界金融危機や、リーマン・ブラザーズ、ワシントン・ミューチュアルなどの金融機関の破綻を防ぐことはできなかった。
だれ一人として、全世界を席巻するリセッションを減速させることも、ゼネラルモーターズやサーキット・シティといった市場リーダーの破綻を阻止することもできなかった。政府がどれだけ景気刺激策を講じようとも、景気回復への道は厳しく、日米での雇用創出はごくわずかにとどまるということにだれも気づかなかった。我々はリーダーシップにこれほど期待したことはなかったが、これほど失望させられたこともない。