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連載『成人発達理論で考える部下の育て方とリーダーの成長』はこちら。
【おすすめ記事】「器の大きいリーダー」と「器の小さいリーダー」の違いは何か:ロバート・キーガンの「成人発達理論」で捉える①
会社を成長させたリーダーが、会社の成長を止めてしまう
創業期の会社では、経営者があらゆる意思決定に関与し、みずから顧客の声を聞き、現場に細かな指示を出すことで、組織が前へ進むことがあります。社員数が少ない段階では、経営者自身が最も多くの情報と経験を持っているため、判断を一手に引き受けることにも合理性があり、意思決定の速さや経営者の専門性が、そのまま会社の強みになることも少なくありません。
ところが、社員数が増え、事業が複雑になると、かつて有効だった方法が次第に機能しなくなります。経営者に判断が集中し、現場の意思決定が遅れる。経営者の目が届かないところで問題が起こり、部下は自分で考えるよりも、上司の答えを待つようになる。やがて人材の出入りも増え、経営者は「社員の能力が足りない」「当事者意識がない」といら立ち始めるでしょう。
けれども、ここで問題になっているのは、本当に社員の能力だけなのでしょうか。会社を成長させてきたリーダー自身の成功パターンが、皮肉にも次の成長を妨げている可能性があります。人は、失敗した方法よりも、これまで自分を成功に導いてきた方法のほうを手放しにくいものです。だからこそ、リーダーの器を大きくするためには、いまある器を磨き続けるだけでなく、時にその器を一度割り、より大きなものへとつくり直す必要があるのです。
器を磨くだけでは、越えられない壁がある
前回は、感情が揺れた場面を振り返り、自分の価値観や認識のレンズを見つめることが、器を磨く実践になると述べました。傾聴力を高める、質問の仕方を工夫する、自分の感情を客体化する、権限委譲の方法を学ぶ。こうした取り組みは、リーダーとしての対応力を着実に高めてくれます。
ただし、現在のリーダー像や世界観そのものが問題を生み出している場合、既存の器をいくら磨いても状況には対応できません。たとえば、「優れたリーダーとは、誰よりも正しい答えを持っている人である」という前提に立ったまま、傾聴の技法だけを学んだとしましょう。その人は部下の話をていねいに聞いているように見えても、実際には、自分が用意した正解へ相手を導くために傾聴を使うかもしれません。表面的な行動は変わっていても、他者との関係を捉える基本的な枠組みは、以前のままです。
ここでいう器を磨くとは、現在の意味づけの枠組みを保ちながら、知識、スキル、経験、行動の選択肢を増やすことを指します。それに対して器を割るとは、現在の意味づけの枠組みそのものの限界に気づき、自分、他者、組織、リーダーシップの捉え方を再構成することです。両者の違いは、学ぶ内容の量ではありません。自分が世界を見る枠組みそのものが変わるかどうかにあります。
リーダーの行動を方向づけるアクション・ロジック
この違いを考えるうえで参考になるのが、ウィリアム・トーバートのアクション・ロジックです。アクション・ロジックとは、リーダーが自分自身、他者、組織、目の前の状況をどのように意味づけ、それに基づいてどのような行動を選ぶかを方向づける内的な論理を指します。これは、単なる性格やリーダーシップスタイルではなく、何を問題と見なし、何を優先し、どのような行動を適切だと考えるのかを支える、深層の認識枠組みだといえるでしょう。
同じ出来事に直面しても、アクション・ロジックが異なれば、見えてくる問題も、選ばれる対応も変わります。複数の部下が相次いで退職した場面を考えてみましょう。あるリーダーは「指示に従えない人材が増えた」と捉えるかもしれませんし、別のリーダーは「目標設定や評価制度に問題がある」と考えるかもしれません。さらに別のリーダーであれば、「自分たちが当然視してきた組織文化や、成果の定義そのものを問い直す必要がある」と理解する可能性もあります。
つまり、リーダーは出来事に直接反応しているわけではなく、みずからのアクション・ロジックによって意味づけられた出来事に反応しているのです。そのため、行動だけを変えようとしても、やがて元のパターンへ戻ってしまいます。行動を生み出しているアクション・ロジックそのものを見つめない限り、根本的な変化は起こりにくいと考えられます。
水平的発達と垂直的発達の違い
成人発達の文脈では、現在の意味づけの枠組みの中で能力を高めることを「水平的発達」、現実を意味づける枠組みそのものが変化することを「垂直的発達」と呼び分けることがあります。
水平的発達では、会議運営、交渉、コーチング、目標管理、権限委譲といった知識やスキルが増えていきます。これは、現在の器をより巧みに使えるようにする成長です。一方の垂直的発達では、何をリーダーの役割と見なすか、その理解自体が変わります。






