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連載『成人発達理論で考える部下の育て方とリーダーの成長』はこちら。
【おすすめ記事】部下が「スキルは高いが、器が未成熟」な場合、どう育てればよいのか:成人発達理論で考える
なぜ、あの部下にだけすごく腹が立つのか
同じ失敗を目にしても、すごく腹を立てるリーダーがいる一方で、落ち着いて事情を尋ねる人もいます。たとえば、予定していた時刻になっても、部下から報告がなかったとしましょう。ある上司は、「責任感がない」「何度言っても変わらない」といら立ち、厳しい言葉で注意します。別の上司は、仕事の進め方について認識のずれがあったのかもしれないと考え、まず状況を確認しようとするでしょう。目の前で起きた出来事は同じです。それにもかかわらず、なぜ反応はこれほど異なるのでしょうか。
私たちは、出来事をありのままに見ているわけではありません。それぞれが持つ価値観、過去の経験、仕事観を通して、出来事に意味を与えています。言わば、誰もが固有の「認識のレンズ」を通して世界を見ているのです。感情が大きく揺れた時、その原因を相手の側にだけ求めたくなるものです。
「あの部下の態度が悪いから腹が立った」「約束を守らなかったから失望した」。そう考えれば、自分の反応は正当なものに思えます。もちろん、相手の言動に問題がある場合もあるでしょう。しかし、相手の行動は感情が生じるきっかけではあっても、その感情の形や強さを決める唯一の原因ではありません。そこには、自分が何を大切にし、何を当然だと思い、何を脅威として受け取るのかが関係しています。
器の大きいリーダーは、感情の揺れを相手の問題だけで終わらせません。むしろ、普段は見えない自分の盲点が表れた機会として受け止めてきたのではないでしょうか。
「器が大きい人は怒らない」という誤解
器の大きい人と聞くと、いつも穏やかで、滅多に怒らず、部下の失敗にも寛容な人物を思い浮かべるかもしれません。けれども、感情を表に出さないことと、器が大きいことは同じではありません。
怒りを抑え込み、表面上は冷静に振る舞っていても、内心では相手を見下し、対話を諦めていることがあります。衝突を避けるために何も言わず、問題を先送りしているだけかもしれません。一見すると落ち着いた態度であっても、自分の感情や前提を見つめているとは限らないのです。
器の大きさを分けるのは、感情が生じるかどうかではありません。生じた感情と、どのような関係を結べるかです。怒りやいら立ちと一体化し、その勢いのまま相手を評価するのか。それとも、感情を感じながらも、「自分はいま、何に反応しているのだろう」と立ち止まれるのか。両者の間には大きな違いがあります。
器の大きいリーダーとは、感情を失った人ではありません。感情に巻き込まれきることなく、それを自分自身について知るための情報として扱える人だといえるでしょう。
盲点とは、自分と一体化している認識のレンズである
この違いを理解するうえで参考になるのが、発達心理学者ロバート・キーガンの主体―客体理論です。キーガンは、人間の発達を、主体と客体の関係が変化していく過程として捉えました。ここでいう主体とは、自分が無自覚に一体化し、それを通して世界を見ているものです。これに対して客体とは、自分から一定の距離を取り、観察し、検討し、必要に応じて扱い方を変えられるものを指します。
【参考記事】「器の大きいリーダー」と「器の小さいリーダー」の違いは何か:ロバート・キーガンの「成人発達理論」で捉える①
「責任感のある部下なら、言われなくても途中経過を報告するはずだ」。あるリーダーが、このような前提を持っていたとしましょう。その前提と自分が一体化していると、本人には、それが数ある考え方の一つだとは見えなくなり、「社会人として当然のこと」「誰が考えても正しいこと」として認識されるのです。そのため、報告をしなかった部下を見た時、仕事の進め方に違いがあるとは考えません。「責任感に欠ける人だ」と、人格の問題として評価してしまいます。
同様に、「上司に反論する部下は敬意を欠いている」「リーダーは常に正しい答えを示さなければならない」「部下の失敗は、上司である自分の能力不足を意味する」といった前提も、リーダーの判断を無意識のうちに方向づけます。前提が主体である間、私たちはそのレンズを通してしか状況を見ることができません。レンズそのものを通して世界を見ているため、どのようなレンズをかけているのかに気づけないのです。
ところが、「自分は、反論されることを敬意の欠如と捉えているのではないか」「正しい答えを示せない自分には価値がないと思っているのかもしれない」と言葉にできた瞬間、変化が起こります。それまで自分を支配していた前提が、少しずつ観察可能な客体へと移り始めるからです。
器を大きくするとは、自分の価値観を捨てることではありません。責任感、誠実さ、成果へのこだわりは、いずれもリーダーにとって大切な価値でしょう。問題になるのは、それらを唯一絶対の基準と見なし、異なる価値観や行動様式を持つ相手に無自覚に当てはめることです。自分の認識のレンズを客体として見られるようになれば、価値観を保ちながらも、状況に応じて柔軟に用いる余地が生まれてきます。






