新たな事業のアイデアはあっても悩みは尽きないものだ。それは、自分のアイデアが果たして成功するかどうかだ。この不安は事業機会を深く理解することから解消される。本稿では、そのための簡単な9つの方法を紹介する。

 

 私の妹ミシェルの、起業家としての経歴はなかなかのものだ。10年ほど前、彼女は自分の持つ言語習得についての専門知識と、当時急速に蓄積していた育児の知識を結びつけ、手話を通じて乳幼児とコミュニケーションするという斬新な方法を生み出した。乳幼児はコミュニケーションをとりたがっており、本来は可能である、ということが判明している。しかし喉の筋肉が弱いために、その努力がくじかれているのだ。ミシェルはこの洞察をもとに書籍を執筆し、家族向けのパンフレットを制作し、今では全米各地に普及している「スマート手話(Signing Smart)」という教育プログラムや、キンダーミュージック(訳注:音楽を活用した幼児向けの教育)の「歌って手話(Sign & Sing)」というプログラムを開発した。

 次に、彼女は長年の協力者であるレイナ・リンダートとともに、最近Little Girls Can Be Mean(少女だって意地悪になる)という書籍を刊行し、子供のいじめに早い段階で気づいて対処する方法を、親や教師たちに伝えている。

 私が恥ずかしげもなく妹の宣伝をしていると皆さんが思うといけないので(まあ、そういう面もあることは認めよう)、ミシェルに対する私の不満も公表しよう。私の次回作The Little Black Book of Innovation(イノベーションのアドレス帳)の原稿を彼女に読んでもらったときのことだ。「この本がターゲットとする読者に私が含まれるのかしら?」と彼女は言った。彼女は自分のことをイノベーターだとは思っていないのである。

 だが私の定義によれば、彼女は間違いなくイノベーターである。ミシェルは、「インパクトのある、これまでとは何か違ったこと」を創造した。これがイノベーターの証である。そして彼女も、他のイノベーターたちと同じ課題に直面している。

 彼女が今悩んでいる問題はこうである。最近刊行した本が非常に好評で、彼女の思った以上に売れた。そこで出版社は、その本の70%の内容で、3分の1の価格に値下げした、新しい「ポケット版」の刊行を提案してきた。理屈から言えば、こうした小型サイズの特価本は、より幅広い読者層に届き、完全版の書籍に対する需要も掘り起こす。

 彼女と出版エージェントはジレンマを抱えている。彼女らは、今日の社会でますます深刻化するこの問題で読者を助けるために、できるだけ多くの本を売りたいと思っている。ミシェルは関連するテーマについて別の本を執筆する計画があるので、販売実績がよければ将来の本の前払い印税が増える可能性もある。その一方で、彼女らは、このポケット版の内容が今出ている本とあまりに似てしまうので(完全版は紙と電子書籍を併売している)、結局は高価格の書籍よりも、低価格の方が中心となってしまうのではないかと懸念している。