中央大学ビジネススクールは「戦略経営リーダーの養成」を掲げ、働きながらMBA/DBAを取得する社会人向けに、多彩なプログラムを用意している。そのコア科目の1つに位置付けられているのが、遠山亮子教授の「知識創造戦略論」である。理論とケーススタディの両輪からなる科目で、今回はケースとして「セブン‐イレブン・ジャパン」を取り上げた講義を紹介する。なお、遠山教授の本講義に先立って、同社幹部をゲストとして招いた講義と、4つの学生グループによる分析発表が行われた。

本質的な矛盾が知識創造プロセスの駆動エンジン

 知識創造プロセスとはどのようなものか、知識創造を促進するために必要なものは何か――。こうしたテーマについて、セブン‐イレブン・ジャパンのケースを取り上げて考えてみたいと思います。

 まず、同社が目指す企業像または店舗像について確認しておきましょう。「世の中の変化への対応」、「基本の徹底」、そして近年付け加わった「近くて便利」という3つがセブン‐イレブン・ジャパンが目指す理想の未来だと言えるでしょう。これらの追及には実は終わりはなく、その実現には絶え間ない知識創造が必要となります。

遠山亮子教授
一橋大学商学部卒。ミシガン大学経営大学院博士課程修了。専門分野は、国際経営戦略、イノベーションマネジメント

 世の中は常に変化しており、昨日正しかったことが今日も正しいとは限りません。どれほど変化に対応しても、明日にはまた世の中は変化しています。また、クリーンな店舗やフレンドリーな店舗スタッフは小売業の基本ですが、いくら清掃を徹底しても次の日には汚れているかもしれません。業務に慣れた学生アルバイトも、やがて辞めてしまいます。

 コンビニにとって「近くて便利」は当然のようにも見えますが、店舗ごとに客層が異なる以上、「何が便利なのか」という中身も違っています。例えば、来店した顧客が目当ての商品を購入できるかどうかは「便利さ」の1つの指標でしょう。その商品が棚に並んでいなければ、少なくともその顧客にとっては「便利な店」とは言えません。

 そこで、同社は機会損失をなくすことに注力しています。ただし、売り切れをなくすために過剰在庫を抱えれば、利益を圧迫する要因になります。機会損失と在庫損失の両方を減らすという難しい課題に、それぞれの店舗は取り組まざるをえません。

 この本質的な矛盾を、いかに乗り越えるか。そのためには、店舗や本部など様々なレベルで、あるいはパートナー企業を巻き込んであらゆる知識を総動員する必要があります。これが、セブン‐イレブン・ジャパンの知識創造プロセスを回転させる駆動エンジンと言えるでしょう。

 その中核に据えられているのが、仮説・検証のプロセスです。各店舗が仮説をつくるために、本部の持つPOS情報だけでなく、地域のイベントや天気の予測など様々な情報が用いられます。例えば、「明日はお祭りで晴れそうだから、弁当を普段の2倍仕入れる」と決め、弁当の並べ方も工夫してみる。この仮説は実践され、売上という数値によって検証されます。「どこが正しかったのか」「どこが間違っていたのか」が詳細に分析され、その結果は次の仮説づくりに生かされます。