イノベーションを追求しているのに、逆方向の取り組みをする企業が多い。そこには、イノベーションに対する大いなる誤解が渦巻いているからだ。ここでは、イノベーションを巡る10の迷信を紹介する。

 

 この1年間、私は自分のプレゼン用資料を見直し、スライドには主に写真と96ポイントの文字を使うようにしてきた。これは参加者によかれと思ってのことだが、先週届いたメールでの次のような依頼に対しては、十分ではない。

「私は会議の場で、イノベーションへの取り組みの最新状況を伝える役を担っています。話し合いを始める言葉やきっかけとして、何かよいものはありませんか」。我々のクライアント企業の上級管理職からの相談である。「このプレゼンの主な狙いは、参加者たちを前向きな気持ちにして、積極的にイノベーションに関与しようと思ってもらうことです」。

 まさにこの点について、私は4月にスライドを使って説明したことがある。残念なことに私のスライドは、黒い箱が描かれた大きなイラスト、スティーブ・ジョブズの写真、8人の学者たちの顔写真、〈オールド・スパイス〉(男性用デオドラント)の広告のスクリーンショット、私のシンガポールで行きつけの理髪店の写真、などである。どれも面白いのだが、文脈がわからない第三者にとっては役に立たないだろう。

 そこで、プレゼンの冒頭で使えそうなものを同僚のジョシュ・サスケウィッツと一緒に考えた結果、現場でよく耳にするイノベーションについての10の迷信をまとめてみた。

迷信1:イノベーションはランダムに起こる。

現実:イノベーションとは秩序であり、測定・管理ができる。プロクター・アンド・ギャンブルがイノベーションに取り組む体系的な仕組みをつくり、成功確率を3倍にし、取り組みの規模を倍にした事例を考察してみよう(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2011年10月号「P&G:ニュー・グロース・ファクトリー」を参照)。

迷信2:創造性あふれる天才だけがイノベーションを起こせる。

現実:イノベーションと創造性は別物である。もちろん創造性は役立つが、もともと創造性がない人でも、適切なプロセスに従えば、大きなインパクトのあるイノベーションを生み出すことができる。

迷信3:人はイノベーターか、そうでないかだ(イノベーション能力は生まれつきのものである)。

現実:「イノベーターのDNA」(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2010年4月号)における調査によれば、イノベーション能力の30%は先天的な資質で、70%は学習によって獲得可能である。