新興国市場への参入に際し、考えるべきことは山ほどあるだろう。どのセグメントを狙うべきか。地元企業をどう相手にするか。模倣にどう対抗するか。3人の識者による知見を紹介する。
先日、プロクター・アンド・ギャンブルCTO(最高技術責任者)のブルース・ブラウン、ヴィヴァルディ・パートナーズの取締役兼CEO エーリッヒ・ヨアヒムスターラーと一緒にパネル討論を行い、活発に討議する機会があった。このセッションはハーバード・ビジネス・レビュー主催、シンガポール経済開発庁後援によるイノベーションについての集中セミナーの一環であり、テーマは「新興国市場で最初に参入すべきセグメントを考える――ターゲット顧客は中間層か、低所得層か」である。
多くの企業は中間層への参入から始めるべきだ、という意見を私が述べて議論の口火を切った。世界銀行の予測によれば、新興国市場での中間層の消費者は現在(2010年)の4億2000万人から、2030年までに12億人に急増する。アジアだけを見ても、同期間に中間層の消費支出は5兆ドルから30兆ドルへと急上昇する。
一方で私は、この巨大な中間層にリーチすることは簡単ではないことも指摘した。まず、魅力的な製品やサービスを提供することだけでなく、複雑なビジネスモデルに精通することが求められる。販売方法、流通、アフターサービスなどさまざまな面で、新たな方法を試してみなければ成功は難しいかもしれない。組織のあり方も再考する必要がある。巨大なグローバル企業は新興国市場の拠点を、単なる販売代理店としてではなく、地元の開発拠点として機能するようにしていかなければならない。こうした転換は、言うは易く行うは難きである。組織階層、人材管理、ジョブ・ローテーション制度、報酬制度などを含む多くの要素を見直すことが求められる。
ヨアヒムスターラーは、次のような見解を示してくれた。人口や消費の急増は魅力的である一方で、中間層は一枚岩ではない。企業は中間層を、より細分化された市場ごとに理解する必要があり、それらの市場で成功することは想像以上に難しいと認識するべきであるという。そしてタタの低価格車〈ナノ〉がインドで真の「大衆車」として根付くのは難しいかもしれない、ということを解説してくれた(これについては私の過去記事も参照されたい)。彼の意見では、自動車へのあこがれを抱くインドの人々にとって、「最低価格」が最大の特徴である車は真っ先に購入したいものではないという。
ブラウンは、次のような話をしてくれた。P&Gは、世界中で50億人の消費者をターゲットにして市場を拡大すると発表している。同社の規模を支えこの戦略を実現するためには、あらゆる市場、あらゆる層を考慮しなければならない。同社は商品を通じて「顧客の歓び」を提供する戦略をつらぬくことで、ブランドを築き上げる。ブラウンによれば新興国の消費者は、成熟市場の消費者よりも要求が高くなることがあるという。そこでP&Gは、「単独進出」するべきか、あるいは必要なケイパビリティーを得るために現地で提携や買収をするべきか、慎重に検討しているという。また、インドをはじめ新興国市場で同社の成長の原動力となっている、低価格の剃刀〈ジレット ガード〉の成功事例を紹介してくれた。