3. 単純なマルチプル法による株式価値評価
株価収益率(PER)や株価純資産倍率(PBR)を掛ける単純なPERマルチプル法やPBRマルチプル法で評価することを考えよう。2013年2月26日現在の東京近郊の鉄道各社のPERとPBRは表1のとおりである。
これら東京近郊の鉄道各社は、不動産事業やデパート事業まで含めた総合的な沿線経営をしており、東京メトロとはビジネス・モデルが異なるため、単純に比較することにはムリがある。しかし、ほかに比較対象がないので、ここでは、ムリを承知で単純比較することにしよう。
東京メトロの2012年3月期の当期純利益は314億円、株主資本は3858億円である。PERマルチプル法なら、314億円 × 40.42倍 = 1兆2692億円、PBRマルチプル法なら、3858億円 × 1.91倍 = 7369億円ということになろう。そのうち、国の持分である53.4%の金額は、それぞれ6777億円と3935億円となる。
ただし、上記のPERの平均は、京浜急行電鉄のPERが109.37倍であるためにかなり高くなっている。京浜急行電鉄を除いたPER平均28.93倍を使えば、東京メトロの時価総額は、 314億円 × 28.93倍 = 9084億円となり、その53.4%は4851億円となる。
これらの単純な評価法にある程度の合理性があるとすれば、東京メトロ株式53.4%を約2000億円で、国が東京都に譲渡するというのは、バーゲン・セールといっていい。日本国から東京都へ数千億円規模で富が移転するように見える。