●コミュニティ・マーケティングを再生する
ソーシャルメディアによって、買い手は自身のコミュニティで実際に起こっている購買行動を重視する傾向を強めている。たとえばあなたが大きな買い物――新しい屋根、大画面テレビ、優秀な外科医といった製品やサービス――について検討しているとする。あなたは営業担当者に会いに行ったり、企業のウェブサイトを隅々まで読んだりはしないはずだ。その代わりに、隣人や友人、つまり仲間のネットワークに、どんな製品・サービスを使っているか尋ねるだろう。
企業はソーシャルメディアへの取り組みを通して、こうしたコミュニティ重視型の購買行動を可能な限り再現するべきだ。一方で、フェイスブックなどのソーシャルメディア企業は、それを実現させる専門家となるべきである。そのためには、買い手の仲間(ピア)のネットワークを拡大することだ。仲間とはすなわち、製品やサービスの購買経験に基づいて、信頼性のある情報やアドバイスを提供できる人たちである。
たとえば、ズベランス(Zuberance)という新しい会社は、得意客がソーシャルメディア上で企業を支援できる、簡単かつ楽しい仕組みを提供している。顧客アンケートで、回答者が自分を「プロモーター」(その製品・サービスを知人に推奨する意思が強い顧客)であると認めたら、その瞬間に推薦文やレビューを書けるフォームが現れる。顧客がそこに書き込むと、ズベランスは顧客が指定したソーシャルメディアに投稿し、顧客のネットワークは即時にその購買経験について知ることになる。
●影響力を持つ顧客を見つける
多くの企業は、ウェブ上やソーシャルメディアですでに影響力を持っている人を探して利用することに多くの資源を費やしている。より優れたアプローチは、影響力を及ぼせる人を顧客のなかから見つけて育て、その人が喜んで発信したがるような内容を提供することだ。これには、顧客生涯価値(CLV)を超越した新たな顧客価値の指標が必要となる。顧客生涯価値は、購買だけに基づくものだ。購買金額以上の、顧客の潜在価値を測る方法は多数ある。たとえば、その顧客のネットワークはどれくらい大きいか、自社にとっての戦略的重要性はどの程度か、その顧客はどれほど良い評判を確立しているか、などである。
マイクロソフトの「MVP顧客」(最も価値のある専門家)の1人は、フォロワーのあいだで「ミスター・エクセル」として知られている(同社のMVPについてはこちらのサイトを参照)。日によっては、彼のウェブサイトの訪問者数は、マイクロソフトのエクセルのページの訪問者数を超えることがある。これは彼の存在が同社にとっていかに重要かを示している。同社はミスター・エクセルの取り組みを、非公開の知識や新製品のプレビューなどを提供することで支えている。代わりにミスター・エクセルや他のMVPは、マイクロソフトが新たな市場に効率よく進出することを助けている。
●ソーシャル・キャピタルの構築を支援する
コミュニティ中心の新たなマーケティングを実践している企業は、MVP顧客(チャンピオン顧客、ロックスターなどとも呼ばれる)への価値提案も見直している。従来型のマーケティングでは、カスタマー・アドボカシーを促進するために現金報酬、割引、または不適切な方法を用いる場合が多い。一方、新たなマーケティングでは、支援者や影響力を持つ顧客がソーシャル・キャピタル(社会関係資本)を築くことを手助けする。彼らのネットワークを豊かにし、評判を高め、新たな知識にアクセスできるようにするのだ。これらは、彼らが強く望んでいるものだ。
ナショナルインスツルメンツ(NI)は影響力のある顧客に対して、特にクリエイティブな方法を用いた。対象は、NIの取引先でITを担当するミドル・マネジャーたち。NIは充実した調査データや財務的実証データを彼らに提供し、NIのソリューションが戦略的メリットをもたらすことを彼らが経営陣に証明できるようにした。これにより、NIの存在は経営陣のあいだで確立された。そしてミドル・マネジャーたちは、経営陣に新しいアイデアを吹き込んだ戦略家であるとして高い評判を得ることができた。