●ソリューションに支援者を巻き込む
これに関する最大の成功事例は、非営利の世界に見られるだろう。しばらく前に、10代の若者の喫煙者数が全米で警戒すべきレベルにまで達した。そこで、フロリダ州はこの問題の解決のために数十年続けてきた取り組みを見直した。10代の喫煙をやめさせようと説得するのは、とても難しい。マルコム・グラッドウェルがかつて、「解決できない」とした問題である。この問題をフロリダ州は、「ピア・インフルエンス」(peer influence:仲間による影響)が発揮されるコミュニティをつくることで解決した。生徒会のリーダー、スポーツ選手、「イケてる」若者など影響力のある10代の「顧客」のなかから、非喫煙者や絶煙希望者を探した。そして、メッセージを押し付けるのでなく、彼らに協力や助言を求めたのだ。
この方法で、600人ほどのティーンエイジャーが集められ、喫煙問題を話し合うサミットが開かれた。彼らは、これまでの喫煙防止の取り組みがなぜ効果をあげなかったかを担当者に話した。健康への影響についての恐ろしい警告も、喫煙の習慣を「カッコ悪い」と大人たちが表現することも、彼らの心には響かなかったのだ。サミットでは、死亡した熟年層の顧客(死因の多くは肺がん)の穴埋めとして、タバコ会社の幹部が特に10代をターゲットとしていることを示す文書が公開された。10代の参加者たちは怒りに突き動かされ、新しいアプローチについてアイデアを出し合った。
そして彼らは、SWAT(10代の喫煙に反対する学生の会)というグループを結成し、電車での講演ツアーやワークショップの開催、Tシャツ販売といった訴求力のある活動を行って、各地のコミュニティにメッセージを届けた。その結果、大手タバコ会社のロビー活動による卑劣な反撃にもかかわらず、フロリダ州での10代の喫煙率は1998~2007年のあいだに半減した。10代の喫煙防止活動で、史上最も大きな成功となったのである。
この事例を別の言い方で表現してみよう。フロリダ州は、巨大で資金豊富な競合から10代の顧客の半分を奪い、非喫煙という「商品」の「顧客」に変えたということになる。最大の購入動機となるピア・インフルエンスを活用して、これを成し遂げたのだ。
あなたも同じことができる。従来型のマーケティングは役目を終えた。しかしピア・インフルエンスを基盤としたコミュニティ重視型の新たなマーケティングは、顧客との関係を強化し継続的な成長を目指すうえで、はるかに有望である。