テクノロジー産業は不確実性が高く、繁栄がごく短期間で終わることは珍しくない。イノベーションの盛衰に飲まれず生き残っていくためには、何が必要だろうか。不確実な環境下での戦略を専門とするマグレイスは、テクノロジー企業のライフサイクルを4つの段階に分けてそれを説明する。


 テクノロジーの進歩はとても速い。それゆえ戦略家にとってテクノロジー企業は、生物学者にとってのショウジョウバエと同じように興味深い存在である。ライフサイクル全体を短期間で観察できるからだ(ショウジョウバエは実験生物として優れており、生物学のさまざまな研究で利用される)。

 私がこのことを考えるきっかけとなったのは、リサーチ・イン・モーション(RIM)に関するニューヨークタイムズ紙の記事である。同社はブラックベリー製品の収益見通しを下方修正し、iPadに類似した新たな機能を持つ携帯電話の開発に遅れを見せているという。このことは私がたびたび言及する次のようなパターンを反映している――ある企業が画期的な何かを発見すると、やがて他社がそれを模倣したり追従したりして、一時は最先端であったものがごく当たり前の必需品になる、というパターンだ。開発費が高くつくことも、市場にスムーズに投入するのが難しいことも、他社は当然わかっている。それでも競争を挑んでくる。リーダー企業はすでに差別化によって優位を獲得している? 残念ながら、他社がより優れたものを提供すれば、その優位はひっくり返る。

 しかし、単なるテクノロジーの盛衰以外にも、さまざまな要素が企業のライフサイクルを形成する。私が繰り返し目撃してきた共通のパターンを、順を追って説明しよう。

第1ラウンド:期待の新技術

 ある企業が満たされていない顧客のニーズを発見し、成長中のニッチ市場で魅力的なポジションを確立する段階だ。パーム(Palm)の場合でいえば、手書き文字認識を利用できる最初の本格的なスマートフォンの発明がこれにあたる。私もパームの携帯電話が大のお気に入りだった。カレンダーや連絡先を同期したり、メモをとったり、PCとメールを同期することもできた。フリップ(Flip)の場合は――親会社のシスコは同社をビジネスの歴史から葬り去ろうとしているが――必要十分な画質のビデオを撮り、当時まだ珍しかった動画共有サイトに投稿できる低価格ビデオカメラの開発である(シスコは2011年にフリップ・ビデオの事業を閉鎖)。これらの事業は共存共栄の関係を通して発展し、ソーシャルメディアという分野の確立に寄与した。

 RIMの場合は、「ワォ!」と驚くeメール機能の発明だ――いつでも、どこにいても、PCに接続しなくてもメールができる! 当時それがいかに驚異的であったか、今では忘れられている。多くの企業幹部の世代にとって、ブラックベリーの操作に没頭するのが仕事のひとつになった。

第2ラウンド:我が世の春

 業界にお金が流れ込み、リーダー企業が繁栄を極める段階だ。その革新的な経営について、多くのビジネス書や論説、ケーススタディが発表される。ビジネスウィーク誌による2008年の「IT企業トップ100」に選ばれたRIMを、ジャーナリストは「飛ぶ鳥を落とす勢い」と興奮気味に称えている。また同社は数々の賞に選ばれ、ビジネスウィーク誌による2010年の「最も革新的な企業ランキング」では14位に入っている。

 しかしこうしたリーダー企業は、その地位がずっと続くわけではないことを認識しており、イノベーションへの投資を続ける。ところがその取り組みは往々にして「今までの繰り返し」に留まり、今やその技術にすっかり馴染んだ顧客の体験を軌道修正するだけのものとなる。