マイケル・ポーターは、まだハーバード・ビジネス・スクールの准教授だった1979年、“How Competitive Forces Shape Strategy”(邦訳「[新訳]競争の戦略:5つの要因が競争を支配する」DHBR2007年2月号)を発表した。この論文は、競合他社、新規参入者、サプライヤー、顧客、代替品という「5つの競争要因」によって「業界構造」を分析・定義し、これに基づいて「戦略を立案」することの有効性を説くもので、戦略論の世界に新風を巻き起こした(その翌80年に発表されたのが、世界的ベストセラー『競争の戦略』であり、称賛を持って世界じゅうのビジネス・リーダーたちに受け入れられた)。本稿は、その全面改訂版である(その改訂作業には、同スクール教授のジャン・リブキン、ならびに長年の同僚であるジョアン・マグレッタが協力している)。この改訂版では、各事例を更新するだけにとどまらず、現在の企業競争の実態を踏まえたメッセージが盛り込まれている。本稿を理解せずして、ポーター戦略論は語れない。

競争は業界構造に支配される

 戦略担当者の仕事は、突き詰めれば、競争を理解し対処することである。しかし往々にして、いま直接対決している企業との間だけで起こっているかのごとく、狭義に競争を定義しがちだ。

 利益の奪い合いでは、「業界内の企業」のみならず、さらに他の競争要因、すなわち「顧客」(買い手)、「サプライヤー」「将来の新規参入者」「代替品」が含まれる。対立関係を広義にとらえると、これら「5つの競争要因(ファイブ・フォース)」が明らかになるが、これによって業界構造が決まり、かつ業界内でどのような競争が繰り広げられるか、その性質も方向づけられる。