Minimal Viable Product(MVP)とは、必要最低限の機能のみを持つ製品のことだ。事業仮説を検証するために市場に最初に投入するバージョンとして用いられる。アンソニーはMVPの不適切な投入が事業の失敗を招く危険性を指摘し、それを回避する方法を説く。
米国の西海岸から生まれた潮流によって、新規事業の創造がアートからサイエンスへと変わろうとしている。この潮流の思想的指導者は、スティーブ・ブランクである。彼はいくつかの会社を起業した後、現在はスタンフォード大学とカリフォルニア大学バークレー校で教鞭を執っている。ブランクの門弟のひとりであるエリック・リースは、「スタートアップの教訓」という超人気ブログ(英文のサイトはこちら)を、『リーン・スタートアップ』(邦訳2009年、日経BP社)という1冊の本にまとめた。これは2011年の最も優れたビジネス書のひとつである。
私はこの本の大ファンだ。すべてのイノベーターはリーン・スタートアップについて詳しく学ぶべきである。特に注目すべきは、「実用最小限の製品」(MVP:Minimum Viable Product)という概念だ。この概念はとても単純である。自分のアイデアが優れたものかどうかを確認するのは、市場に投入してみるまではほぼ不可能だ。したがって、間違った方向に製品を手直しするような時間の浪費はすべきでない。そうではなく、「まあまあ」(good enough)程度の製品を市場に出してみる。そして実際の顧客に製品を使用してもらい、そのフィードバックから学ぶようにせよ、というものだ(ヘンリー・ミンツバーグは1985年の有名な論文で、このプロセスを「創発戦略」と名付けた)。
だが時には、このMVPが「平凡な価値提案」(Mediocre Value Proposition)になってしまうことがある。ある企業が製品を市場に投入する。何人かの顧客がそれに関心を示す(いつだって何人かは顧客を見つけることができる)。その販売結果は目標に届かなかったが、企業は「大丈夫、これは学習のための実用最小限の製品にすぎないのだから」と言う。そしていくつかのマイナーチェンジを行い、予算を増やし・・・・・・そしてばったりと倒れるように、失敗する。
私は心の片隅で、これはマグハウンド(Maghound)に起こったことではないだろうかと思っている。2008年の後半、雑誌業界の有力者たちに向けたプレゼンテーションを準備していた時に同僚がたまたま、タイムによって立ち上げられたばかりのベンチャー企業に気がついた。この会社は「雑誌のネットフリックス」を標榜し、消費者は個別の購読契約をすることなしに、さまざまな雑誌を毎月定額で読み放題であるという。素晴らしいサービスのように思えた。