ビッグデータや各種のマーケティング・ツールによって、膨大な顧客データの収集・分析がますます可能となっている。しかしマーティンは、定量分析にのみ頼ることの落とし穴を指摘する。顧客をより深く理解するために最も大事なことは、何だろうか。


 エージェンシー理論で知られるマイケル・ジェンセンは、定性的なパフォーマンス評価について明快な見解を持っている。彼によると、部下は上司から定性的な評価を受けるのを嫌うという。評価がマイナスの場合は特にそうである。部下は定性的な評価には否定的で、フィードバックは定量的なものだけにしてほしいと求める。

 ジェンセンは意外にも、上司にこうアドバイスする――フィードバックが定性的であることを詫びるのではなく、部下に対して「純粋に定量的な指標で評価ができるのなら、あなたの仕事は外注されるだろう」 と伝えるべきであると。なぜなら、その仕事の重要な部分がすべて定量化できるのなら、外部の専門家とサービス水準を明確に定めた契約を結ぶのは簡単だし、その方が効率的だからだ。

 つまり、賢明な部下であろうとするならば、自社との関係を少なくとも部分的には定性的な要素に基づくものにすべきであるということだ。なぜなら、その部下が企業に欠かせない人材となるためには、企業による定性的な判断や解釈が必要かつ最善の方法だからだ。定量面を基にした関係は浅いが、定性的な側面が重視される関係は深いものである。

 同様の論理は、企業と顧客との関係にも適用できる。もし顧客に関する理解がすべて定量的な分析に基づくものであれば、顧客との関係は深くはならず、浅いものとなる。

 これは顧客理解についての一般的な見解とは異なる。定量的な顧客分析――統計的に有意な大規模サンプルと、選択式アンケートの回答を基にしたもの――は「厳密」であるとされる。小規模なサンプルと対話・観察を基にした定性分析は、「曖昧」あるいは「いい加減」、そして確実に「非科学的」とされる。