「イノベーションという言葉には、そろそろ辟易だ。実現できないのなら、もっと地に足のついたことを考えよう」――こんなセリフが聞かれる理由は、イノベーションにまつわる3つの誤解、そして実現の難しさに起因するとアンソニーは述べる。
「イノベーションという言葉は、もはや使い古されている」――まるで時計のような正確さで、6カ月ごとにこのような論調の記事が現れる。企業はいま一度基本に立ち返り、執行や戦略などの地味だが重要な課題に集中するべきだ――過労気味の人々による、こうした「原点回帰」論も一緒に紹介される。
最近の例では、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事がある。「それをイノベーションと呼べるのか?」という刺激的な見出しのこの記事には、次のような見事な指摘がある――「かつてあちこちで使われた“シナジー”や“最適化”といった流行語と同じように、イノベーションという言葉も陳腐化の危機に晒されている――まだ陳腐化していなければの話だが」(ビル・テイラーもHBRのブログで、この記事について意見を述べており、内容を真摯に受けとめるべき理由を説明している)。
もちろん、イノベーションという言葉が意味をなさなくなっている企業もある。特に、定義を明確にせず乱用している場合だ。拙著The Little Black Book of Innovation(イノベーションのアドレス帳)では、その定義を簡潔に示している――「インパクトのある、これまでとは何か違ったこと」。このようにあえて広義に示すことで、イノベーションに関する3つの最大の誤解を避けることを意図している。
誤解1:イノベーションと創造性は同じものである
この罠にはまった企業は次のように考える。イノベーションの課題を解決する最善の方法は、幅広い分野から右脳思考型の人々を1つの部屋に集め、素晴らしいアイデアを考えてもらうことであると。もちろん、素晴らしいアイデアはインパクトを生むための重要な要素にはなるが、企業がこのアイデア出しの段階で満足し立ち止まってしまうと、期待外れの結果が待っている。拙著でも述べたように、イノベーションとは「ビジネスチャンスを発見すること」「そのチャンスをものにする計画を立てること」「結果を出すためにその計画を実践すること」――この3つを組み合わせたプロセスである。そしてインパクトがなければ、イノベーションではない。