今回は、過去の事例をもとにちょっとした戦略思考トレーニングをしてみよう。AOLとタイムワーナーの合併が失敗に終わった理由は、ITバブルの崩壊や企業文化の不一致など、いくつか挙げられている。しかしマーティンは、「相反する論理の混ぜ合わせ」が失敗の原因であると看破する。
AOLとタイムワーナーが合併してから数日後の2000年のある日、私はロットマン・スクールの「ニューエコノミー」に関するクラスで講演することになっていた。私はこの合併はタイムワーナーにとって愚かなことだと非難し、いずれ失敗するだろうと話した。自分が絶対に正しいと信じていたが、その理由をMBAの学生に説明するのには苦労した。間違っているより正しい方がずっと愉快ではあるが、本稿のポイントは私が正しかったと証明されたことではない。考えるべきは、なぜ私にそれほど確信があったのかということだ。10年間その理由はわからなかったが、つい最近わかったのだ。
当時の私の直感が伝えていたのは、合併の根拠となる理由があまりにも素晴らしすぎるのでは、ということだけだった。私との共著があるジェニファー・リールの協力を得てたどり着いた結論は、合併の根拠が根本的に非論理的だったということだ。私がいまでは「論理の混ぜ合わせ」と呼んでいるものの一例だった。他の失敗した戦略の多くも、根幹には「論理の混ぜ合わせ」があるのではないかと感じている。
以下で、AOLタイムワーナーで実際に何が起こったのか検討してみよう。
合併前、タイムワーナーは問題を抱えていた。当時、AOLに代表されるオンラインの波が、同社にも音を立てて押し寄せてきていた。オンライン上のコンテンツに対して顧客にどうやってお金を払ってもらうのか見当がつかず、すべてがデジタルになる未来では、課金モデルは崩壊するのではないかと心配していた。AOLにはお金を払っている顧客が大勢おり、おそらくそのすべてが、情報に飢えているものと思われた。
ここからタイムワーナーは次のように考えた。両社が組めば、AOLの顧客はタイムワーナーの価値あるコンテンツに独占的にアクセスできるようになる。それによりAOLは競合のインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)と差別化できる。そうなればAOLの顧客は増え、同時にデジタル・コンテンツに対する売上げが生じる。加えて、AOLはタイムワーナーのブロードバンド・ケーブルにアクセスできるようになり、豊かなコンテンツを提供する能力が高まる。
美しく、きちんとまとまった解決策のように思われる。だが、もっと詳しくこの考え方を検討してみよう。
この新たなビジネスモデルの根底にあるのは、AOLの顧客が独占的なコンテンツに興味を持つという前提である。