それが真実だったとすると、顧客は群れをなしてAOLタイムワーナーに押し寄せるだろう。魅力的な話のように聞こえるが、もっと掘り下げるとどうだろう。AOLは当時、30%ほどの市場シェアを持っていた。だが、ISP市場は不安定で競争が激しかった。競合は単に手をこまぬいて、タイムワーナーのコンテンツのために顧客を奪われるのを黙って見ているだろうか。

 そんなことはない。競合はタイムワーナーが製作したものを、オンラインであろうとなかろうと配給するのを拒否するだろう。そして、彼ら独自の独占的コンテンツを供給するだろう。タイムワーナーは、AOLの契約者を優遇することで、市場の70%への配給をみずから断つことになるのである。タイムワーナーのビジネスモデルでは固定費が大きいので、こうなれば収益力にひどい影響が出る。

 こうした報復が起こらない唯一の条件は、AOLの顧客が独占的なコンテンツにあまり興味を示さない場合だけだ。だがそうなると、独占的なコンテンツを提供するのはよい考えとは言えなくなる。契約者は関心を持たず、戦略的価値がないものと交換にタイムワーナーは株式の半分を渡すことになるからだ。

 非常に明らかな議論だ。しかし、もう一度きちんと整理してみよう。ここには、「もし・・・なら、その結果・・・だ。しかし・・・」という条件構文が2つ存在する。

1. もし、顧客が独占的コンテンツに関心を持たなかったら、その結果自社(タイムワーナー)がコンテンツを囲い込んでも競合は強引な報復を仕掛けてこないだろう。しかし、AOLがさらに成功しても、自社はそこから利益を得ることができない。

2. もし、顧客が独占的なコンテンツに強い関心を示したら、その結果AOLはシェアを拡大することができ、自社のコンテンツに対してプレミアム料金を要求することができる。しかし、そうなると競合による報復が起こり、自社のコンテンツ事業は深刻な事態を迎えるだろう。

 私はこの2つの文章を見て、タイムワーナーで起こったことがわかった。同社で合併を担当する人たちは、文章の「もし・・・」を1つ選び、さらに相反する内容を持つ2つの「その結果・・・」を混ぜ合わせて両方をつなげ、「しかし・・・」は忘れた振りをしたのだ。こうすることにより、彼らは次のような、事実に支えられていない破綻した理論を打ち立てた。

もし、顧客が独占的なコンテンツに強い関心を示したら、その結果AOLはシェアを拡大することができ、自社のコンテンツに対してプレミアム料金を要求することができる。そして、自社がコンテンツを囲い込んでも競合は強引な報復を仕掛けてこないだろう」

 私はこれが、戦略において繰り返される論理的な誤りだと気づいた。2つの独立した論理があり、それぞれ個別には筋が通っている。しかし両者が混ぜ合わされて、非常に非論理的な戦略がつくられる。

 次回も、こうした論理的誤謬の例をさらに示していく。それを回避する方法や、破綻していない偉大な戦略を立案するためのモデルも示していきたい。


HBR.ORG原文:How I Knew AOL Time Warner Was Doomed (No, Really!) November 2, 2010

ロジャー L. マーティン(Roger Martin)
トロント大学 ロットマン・スクール・オブ・マネジメント
学長。
著書に『インテグレ―ティブ・シンキング』などがある。