本誌2013年7月号(6月10日発売)の特集は「広告は変われるか」。これに合わせ、HBR.ORGで展開された「広告の未来」特集から8本の記事を厳選し、お届けする。第7回は、日本でも最近注目されている「ネイティブ広告」について。オンライン広告の需要が増加の一途をたどるなか、ネイティブ広告の定義が曖昧なままでは規範が失われ、混乱が高まる一方であると筆者は警鐘を鳴らす。


 2013年のマーケティング関連のバズワードといえば、「ネイティブ広告」だろう。「次の流行はピンタレストじゃなかったの?」などと言っている間に、ブランド、メディア企業、マーケティング代理店などが、我先にとネイティブ広告人気に便乗している。

 しかし、広告業界が「ネイティブ広告」という言葉をどう定義しているのかについては、議論が分かれるところだ。多くの人は、ネイティブ広告とは地方紙や全国誌でよく見る古典的な記事広告の、婉曲化されたデジタル版――伝統的な社説と広告の境界が、より曖昧になったもの――にすぎないと思っている(たとえばアトランティック誌が掲載した、サイエントロジー教会に関するさりげない広告記事。同誌の性質に合っていないため大きな批難を浴びた)。また、特定の媒体に特化した広告だと言う人もいるだろうし(たとえばバズフィードが広告主と提携してつくる、バズフィードのみで見られる広告コンテンツ)、プラットフォーム横断的なものだと言う人もいるだろう(たとえばAOLがハフィントン・ポスト、テッククランチ、パッチなどの独自媒体全体に展開するスポンサー付きコンテンツ)。パブリッシャーが「ネイティブ広告」を好むのも無理はない。彼らはこの言葉を、いかようにも都合よく解釈できるのだから。

 1996年にIAB(インタラクティブ・アドバタイジング・ビューロー:ネット広告の米国業界団体)は、メディアと広告に基準が設けられない限り、オンライン広告媒体は成熟せず、ブランドの広告費を獲得することはできない、という信念に基づいて創設された。複数の媒体にまたがるフォーマットと仕様を確立してきた従来のメディアと異なり、個々のウェブページは、それぞれが異なる広告の仕様や評価基準を持ちながら、それ自体がひとつのメディア会社になりうる。90年代におけるウェブと同じように、広告は開拓時代の荒野の様相を呈している。IABは、特定のベストプラクティス、研究、教育、主張を超えて、クリエイティブの基準と評価のガイドラインを確立した。しかし、マーケティングのプロたちが「ネイティブ広告」の明確な定義について合意できなければ、これもすべて水泡に帰すかもしれないのだ。

 不安を煽るつもりはない。しかし、もし一貫した定義(技術的なフォーマットと、そこに包含されるコンテンツの両方について)が存在しなければ、この混乱はオンライン広告の成長を阻害することになるだろう。広告業界は、パブリッシャーが広告主にとって複雑で混沌とした環境をつくり出していた頃に逆戻りしてしまうかもしれない。すべてのデジタル創作に独創性が求められるとすれば(技術面でもコンテンツ面でも)、ブランド側は想像力の発揮、制作、そして比較可能な測定モデルの確立など、あらゆることに苦労する。