人材マネジメントの専門家シルビア・アン・ヒューレットは、女性と多国籍人材の活用を研究・推進し、「経営思想家トップ50」の第11位に選ばれている。今週からお届けするヒューレットの記事は、人材の流動化やグローバル化が常態となりつつある日本企業にとっても示唆に富むものが多い。第1回は、新興国に進出する企業が活用すべき女性人材について。
ドバイにあるファイザー中東本社の会議室で、私は思わず息をのんだ。私を驚かせたのは、窓から見える人工島のパーム・ジュメイラや、帆の形をしたバージュ・アル・アラブの高層建築ではない。すぐ目の前の光景だった。
周りに座っていたのは、同社のアフリカ・中東地域の財務部長や人事部長を含む8人のシニア・エグゼクティブだ。同社は新しい地域拠点を築くための戦略を展開中で、全員が陣頭指揮にあたっている。
このような場は、ほんの5年前ならば白人男性で占められていただろう。いま、ここにいる全員が女性で、5人がアラブ人(レバノン、エジプト、サウジアラビア)、1人がトルコ、1人がブラジル、1人がカナダ出身である。
ドバイのファイザーの幹部が全員女性だというわけではない。しかしこの情景は、かつては男性の牙城だった(そして、今もそうだと思われている)場所で、女性エグゼクティブの活躍がこれまでになく可能になっていることを物語る。
8人の敏腕管理職は、この地域における例外的な存在ではない。私はこの時、第2回アラブ女性リーダーシップ・フォーラム年次会議にパネリストとして参加していた。「組織における女性のリーダーシップ――新たなワーク・ライフ・バランスの実現に向けて」と題した2日間のフォーラムには、学術、経済、社会、文化の領域から400人以上のアラブ人女性が参加し、活発な議論を繰り広げた。
これは、まったくタイムリーなテーマだった。多国籍企業は今後の成長の源泉として、新興国市場に目を向けている。そのなかで女性は今後、大きな役割を担うだろう。
私が所長を務める非営利シンクタンク、センター・フォー・ワーク・ライフ・ポリシーは、BRICsやアラブ首長国連邦(UAE)などの新興国市場の女性に関する、大規模な研究を新たに行っている最中だ(完全に開示すると、ファイザー、シーメンス、インテル、ブルームバーグ、ブーズ・アンド・カンパニーが研究のスポンサーとなっている)。それによれば、優秀な能力を持つ女性の人材プールは、いまだ十分に活用されていない。たとえば、
・世界の学士号の半数以上は女性に与えられている。
・UAEの女性の92%は、最高位職を目指している。その上昇志向は、同国の男性に引けをとらず、アメリカ人女性の約2.5倍である。
・UAEの女性は自分の仕事が大好きで、仕事に対してうらやましいほどの情熱を示している。90%は、会社のためなら求められている以上のことをやる意欲がある。