東大発バイオベンチャー「ユーグレナ」の始まりは、いくつかの縁と偶然であった。社長の出雲氏は大学時代、バングラディッシュのグラミン銀行へインターンシップに訪れ、飢餓の現実に直面。栄養素普及ビジネスを志し、東大農学部に転身した。ユーグレナ起業の一部始終を記した著書を公開する連載第2回。

 

仙豆を求めて

 東大農学部5類、農業構造経営学専修。

 この学部に進んだことで、僕はついに「運命」と出会うことになる。

 僕は学部の勉強をするかたわら、世界から栄養失調をなくす計画のほうも真剣に考え続けていた。あるときから思うようになったのが、「地球のどこかに仙豆のような食べ物があったらいいのにな」ということだった。

「仙豆」というのは、鳥山明氏の描いた国民的マンガ、『ドラゴンボール』に登場する食べ物だ。高い塔の上で猫の仙人カリン様が栽培しており、1年間に7粒しか収穫できない。しかし1粒食べればそれで10日間は何も食べずに飢えをしのげ、どんなに体が傷ついていても、一瞬で完璧に回復するという魔法の食べ物である。

 前にも述べたが、バングラデシュの子どもたちに足りないのは、コメのような炭水化物ではなく、タンパク質やミネラル、ビタミンなどの栄養素だ。それら必須栄養素を十分に届けるためには、1種類の野菜や果物だけでは足りない。できる限り栄養価の高い、まさに「仙豆」のような食材を見つけ出さないと──僕はそんなことばかり考えるようになっていた。

 その頃の僕は、「なんでわざわざ農学部に理転してきたの?」と聞かれると、「バングラデシュで仙豆を栽培するためです」と答えて、誰彼かまわず、「仙豆みたいな食べ物はないですか?」と聞いて回っていた。

 しかしその結果わかったのは、「牛肉には十分なビタミンCが存在しないし、植物は魚が持つDHA(ドコサヘキサエン酸)を合成する遺伝子を持っていない。つまり植物は植物固有の栄養素を作り、動物は動物固有の栄養素を作っていて、人間という生き物は、植物と動物の両方をバランスよく食べないとダメなんだ」という当たり前すぎる事実だった。

 動物と植物の両方の栄養素を備えた農産物が作れる可能性が万に1つあるとすれば、遺伝子の組み換え技術かもしれない、とも考えて、その分野で著名な東大の先生に意見を聞きにいったりもしたが、結果は同じだった。

 この頃から、自分で技術を研究するよりも、「自分はその技術を広めるビジネスを担当して、研究は誰か得意な人と一緒にやったほうがいい」とも考え始めていた。そうしていろんな人に聞いて回ったり、紹介をお願いしたり、幅を広げるべくさまざまな分野の授業に出たりしたのだが、なかなか仙豆のような存在とは出会えず、徒労感だけが募っていった。