ミドリムシとの運命的な出会い

「これはもしかすると、仙豆みたいな食物は、自然界にはないのかもしれないな……」

 と思いかけていたときに、ふと鈴木とそのことについて話す機会があった。サークルの飲み会のあと、鈴木の家に泊まったときのことだったと思う。鈴木とはそれまでとくに仲がよかったし、何でも話せる間柄だったが、普段はビジネスや投資の話ばかりで、なぜかそのときまで仙豆の話をしたことはなかった。

 鈴木に「……こういうわけで、ずっと仙豆を探してるんだけど、ないんだよね」と話したところ、鈴木は「仙豆ですか? そんなものはありませんよ。あれはマンガだけの話でしょう」ときっぱりと言う。それを聞いてがっくりきた僕が、

「やっぱりそうか。仙豆なんて夢の食品、現実にあるわけないよなあ……」

 と諦めムードでつぶやいたところ、鈴木は何ということもなくあっさりとこう言った。

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微細藻類のミドリムシ。学名はユーグレナ。

「でも、ミドリムシなら仙豆に近いんじゃないですか。植物と動物の間の生き物ですから」

 ミドリムシ、という言葉を聞いた瞬間、僕は雷に打たれるような衝撃を受けた。もちろん自分もミドリムシという微細藻類について名前は知っていた。中学の理科の教科書で写真も見ている。だがその瞬間まで、ミドリムシが仙豆になりうる存在であるとは、まったく考えもしなかった。

 ミドリムシは体内に葉緑素を備えていて、光合成を行い、植物性の栄養素を作り出す。それと同時にミドリムシは自ら動く性質を持っており、動物性の栄養素も作ることができる。

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ミドリムシは栄養素を作り出す。

 ミドリムシが、僕がいたゼミのお隣、鈴木のいる農学部6類で長年研究されていたことを、僕はまったく知らなかった。

「ミドリムシは、まさに仙豆じゃないか! すごいよ! 大発見だ!」と興奮する僕に、鈴木は冷ややかな声で、「出雲さん、そんなことも知らなかったんですか。常識ですよ」と水を差した。

 さらに鈴木は、驚くべきことを教えてくれた。

 なんと僕が後に「ミドリムシ仙豆プロジェクト」と勝手に呼び始めることになる計画は、すでに10年以上前から日本に存在していたのである。

 

【書籍のご案内】

『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました』
~東大発バイオベンチャー「ユーグレナ」のとてつもない挑戦

 いま日本に、世界から注目を集めるバイオベンチャーがある。名は、株式会社ユーグレナ。「ミドリムシ」の大量培養技術を核に、世界の食料問題、エネルギー問題、環境問題を一気に解決しようと目論む、東大発ベンチャーだ。そのユーグレナを創業した出雲充氏が、起業に至る7年と、起業してからの7年を初めて語る。


【目次】
はじめに―くだらないものなんて、ない。
第1章 問題と、自らの無知を知るということ
第2章 出会いと、最初の一歩を踏み出すということ
第3章 起業と、チャンスを逃さずに迷いを振り切るということ
第4章 テクノロジーと、それを継承するということ
第5章 試練と、伝える努力でそれを乗り越えるということ
第6章 未来と、ハイブリッドであるということ
おわりに―ミドリムシに教えてもらった、大切なこと

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