本誌2013年8月号(7月10日発売)の特集は「起業に学ぶ」。これに合わせ、HBR.ORGから“起業の心得”をテーマに精選した記事をお届けする。第2回は、何を事業の出発点とすべきかを論じる。はじめに計画ありき、と考え綿密なビジネスプランを立てるのは、間違った努力であるという。


 新たにビジネスを始める時、計画は必要だろうか? いや、実はあまり必要ない。

 私が共著者として加わるHeart, Smarts, Guts, and Luck(HBR Press、未訳)では、成功を収めた世界中の起業家数百名にインタビューを行い、事業を成功させるためには何が必要かを探っている。その過程で我々が非常に驚かされた事実がある。イグジットに成功した起業家――つまり、IPO(新規株式公開)や事業の売却で成功を収めた人物――の約70%が、ビジネスプランのない状態で事業を立ち上げていたのだ。

 彼らの事業活動の出発点は、計画ではなく別のもの――我々が「ハート」(Heart)と呼ぶものであった。つまり計画書ではなく、真摯なビジョンを追求する感情や行動に突き動かされていた。明確な目的と情熱を持つ彼らは、アイデアを書き留めることではなく、アイデアをそのまま行動に移すことにより多くの時間を費やしていた。

 計画を立てることが悪いというのではない。しかし、「完璧」なビジネスプランを作成する努力は、「だいたい正しい」結果よりも「純粋に間違った」結果につながることのほうが多い。問題は、ほとんどの人がビジネスプランの中で主眼とする内容は、実際に起こる現実とあまり一致しないということだ。スタートアップの計画の多くは、巨大な潜在市場の存在に着目し、そのごく一部を獲得するだけで自分たちや投資家がいかに儲かるかを強調するものだ。私の共著者は、中国の総人口のわずか0.5%に毎月1ドルの石鹸を販売するという例えを挙げている。これだけで1億ドル規模のビジネスになるのだ! それを実現できればの話だが。

 資源が十分にない起業直後の時点では、コンセプトを現実世界で検証したデータをもってビジネスプランとすればよい。これらは複雑な実験によるものでなくても構わない。簡単に測定でき、自分のコンセプトが有効か否かを示す、繰り返し行えるシンプルな実験が望ましい。

 これはスタートアップに限ったことではない。どんな事業でも、現実世界での検証から得られた事実を戦略アーキテクチャーに取り入れ、必要に応じて進路を調整すべきなのだ。経営学の権威ヘンリー・ミンツバーグは、これを「創発戦略」や「進化的戦略」という言葉で表現している。私のビジネスパートナーであるマッツ・レダーハウゼン(マクドナルドのグロバール戦略部門の元責任者、およびチポトレ・メキシカン・グリルの元会長)は、これを独自の言葉で次のように表現している――大望を持って、小さく始め、規模拡大や失敗を早期に経験する。