グローバル化によって、特定少数の巨大多国籍企業に市場シェアが集中する――そのような危機感を抱く人は多い。しかしデータを見る限りそうした傾向は認められず、杞憂にすぎないとゲマワットは主張する。
前回の投稿「グローバル化がもたらすメリットを数値化する」で私は、グローバル化による潜在的な利益は多くの人が考えるよりも大きいと論じた。私が取り上げたのはメリットのみであるため、読者から即座に数多くの潜在的マイナス面を指摘されても不思議はない。近年の世界的景気後退は多くの人々の暮らしに打撃を与え、失業率が上昇、グローバル化がしばしばその原因に挙げられる。さらには自然環境の悪化、格差の拡大、そして肥満の蔓延までもがグローバル化のせいだと疑われている。これらは本格的な調査に値する深刻な問題であり、今後のブログで扱うつもりである。懸念の多くは見当外れであるか大いに誇張されている、と結論づけるつもりであるが、いくつかの点に関しては実際に適切な政策対応が必要であると考える。
今回の投稿では、市場の失敗の1つ、市場の集中に焦点を当てたい。グローバル化と市場の集中については数多くのネガティブな議論が飛び交っている。近所の店が多国籍チェーン店に取って代わられ、産業界での巨大合併がトップニュースを飾るのを目にするにつけ、少数の強大な企業が世界を乗っ取るのではないかという気がしてくる。これは、グローバル化に対する最も一般的な認識の1つである。数年前に企業幹部を対象に私が行った調査では、「グローバル化は業界の集中度を高める」という説に58%が同意した。そして一般大衆を対象に行われた別の調査では、市場経済に関して最も心配なのは集中化であるという結果が米国、イギリス、ドイツで示されている。大企業が小規模な会社を市場から追い出してしまうことを、人々は心配しているのだ。
なぜそれほど恐れられているのだろうか? 彼らが心配するのは、市場が少数の多国籍企業に支配されると寡占状態となり、それらの世界的大企業が価格を上げたり、製品・サービスの質や種類を低下させたりすることが可能になり、消費者に悪影響をもたらす、ということだ。しかし幸いなことに、データを見る限り、産業界がグローバル規模で集中化に向かっているような傾向は示されていない。
私は10年間以上も業界の集中度に関するデータを取り続けており、30以上の業界について分析してきた。拙著World 3.0で説明しているように、データからは、グローバル化はどの業界でもグローバル規模の集中化を促進してはいないことが示唆されている。自動車業界を例にとってみよう。1920年代にはフォードは全世界の自動車生産の50%を占めていた。それが2010年になると、合計6社で同じ割合を占めている。しかし自動車メーカーの上級幹部たちは、T型フォードの全盛期以降、自動車業界でグローバルな集中が縮小していることを知って驚いた。なぜだろうか。それはおそらく、彼らが数十年にわたり、あらゆる車種をそろえた一握りの自動車メーカーしかグローバル化を生き抜くことができない、という大げさな言葉を吹き込まれてきた事実と無関係ではないだろう。