ビジネスのルールを変える変化は、業界の周縁部で生じ、気づいた時には手遅れである――大きな変化の予兆をいち早くとらえるためには、5つの問いを常に自問し準備を整えておく必要があるとアンソニーはいう。


 2011年3月、巨大な地震が日本の東北地方を襲った。津波による被害のあとは今も痛々しい。だがこの被害は、もっと甚大になっていた可能性もある。地震が起こったわずか3秒後には、非常に高度な地震早期警戒システムが作動した。またこのシステムは、9分後に津波が来るという警報を、テレビや携帯電話を通じて次々に発信した。タイム誌の記者はこう書いている。「これは車を車道の脇に寄せたり、エレベーターに乗るのを見合わせたり、手術を中止したりといった判断を下すには十分な時間であった」

 企業にも、早期警戒システムが必要だ。自社の事業に長期にわたり影響を与えうる、競争の脅威を感知するためである。地震学者はこれまでの研究で監視すべき対象を特定し、信号を正しく検知するためにセンサー網を張り巡らせていた。これと同じように、戦略担当者は過去に起きた大変革を検証し、独自の分析を発信できる。

 戦略担当者は、「明日の業界構造を左右するものは何か」を理解する必要がある。この分野における最大の権威、クレイトン・クリステンセンとリチャード・N・フォスターの研究によれば、次の5つの問いを検討することが重要となる。

1.これまで顧客がプレミアム価格を受け入れてきた機能や性能を、さらに改善する場合、顧客はその分もすすんで支払うだろうか。

 市場でのひとつの転換点となるのは、クリステンセンの言葉でいえば「オーバーシュート」、つまり顧客が使いこなせない過剰性能を企業が提供する時である。テレビのリモコンを見れば、このことはわかるだろう。ボタンはそれぞれ素晴らしい操作を可能にするが、もう1つボタンが増えるなら、その分だけお金を余分に払うだろうか。そうはしないだろう。オーバーシュートが起こり始めたら、その業界は急激に変化する可能性がある。

2.技術の進歩や社会規範の変化によって、顧客の習慣や好みは変わってきているだろうか。

 企業はしばしば重要な変化を見逃してしまう。なぜならそうした変化は、既存の主要顧客ではなく、市場の周縁部分 にいる人々の間で最初に生じるからである。だが、今のティーンエージャーたちの奇妙な行動(テキストメッセージを1時間に100回も送信するのだ!)も、ほんの2~3年のうちには主流となることを覚えておこう。

3.業界の周縁部では、起業はどれほど活発だろうか。

 1980年代と90年代は、多くのベンチャー企業が生まれたのは、通信、ハイテク、医療の分野であった。この数年では、データ・アナリティクス、3Dプリンティング、再生可能エネルギー、金融サービスといった市場でかなりの投資が見られる。これらの業界におけるリーダー企業の経営者は、この動きを注意深く観察する必要がある。大変革の種が、いまこうしている間にも蒔かれているからだ。