4.競争相手が破壊的な戦略によって、業界の一部に大きなインパクトを与えていないだろうか。
クリステンセンの研究によれば、大変革は往々にして、より簡単かつ便利で安価な購入を可能にする破壊的イノベーターによって引き起こされる。より低コストのビジネスモデルを持つ企業、あるいはかつてなくシンプルな製品・サービスを提供する企業の勢いが目立つようになれば、重大な変化の兆しである。金融サービス業界では、このような破壊的イノベーションが夢(あるいは悪夢という立場の人もいるだろう)を現実のものに変えつつある。ジャック・ドーシーが立ち上げたスクエアは、単純だが魅力的なソリューションによって1日に何百万ドルという金額の決済を処理している。英国の消費者金融ウォンガは、ペイデイ・ローン(給与を担保とする短期・高金利の融資)の拡大によって急成長を続けている。そしてグーグルやアップル、さらには大手通信会社も業界への参入をうかがっている。こうした出来事を無視する経営者はリスクを覚悟しなければならない。
5.現在進行中の、あるいは今後予定されている政策や法規制の変更は、競争の原理を変えたり、新規参入を容易にしたりするだろうか。
政府はイノベーションを抑制するものとされることが多い。だがそれは公平な見方ではない。インターネット、モバイル技術、そして人命を救う医薬品など、多くの商業的なイノベーションが政府の研究に端を発している。ただし我々は書籍『明日は誰のものか イノベーションの最終解』のなかで、破壊的イノベーションを目指すイノベーターの意欲と能力を、政府が阻害してしまう例も挙げている。政府が法規制を変更したり、その莫大な購買力を新たな方向に向けたりする時には、経営者は注意する必要がある。
企業は、早期警戒信号をただ分析するだけでは十分ではない。状況に応じて最善の対応ができるように組織体制を整え、行動できるように準備しておくべきである。多くの場合、行動を起こすべきタイミングとは、その必要性が明らかになる前である。優れた早期警戒システムがあれば、その意思決定を助けるデータを得ることができる。
注記:企業の早期警戒システムにとってますます重要になっているのが、ソーシャルメディアでの信号をとらえることだ。これに懐疑的な企業は、地震学者に学ぶべきである。最近フィリピン沖で起こった地震では、高度な設備よりも先にツイッターの地震感知システムが地震をとらえた。このこと自体、世界の急激な変化を示す信号のひとつである。
HBR.ORG原文:Create Early Warning Systems to Detect Competitive Threats September 12, 2012

スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイト マネージング・ディレクター
ダートマス大学の経営学博士・ハーバード・ビジネススクールの経営学修士。主な著書に『明日は誰のものか』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(共著)などがある。