第1に、企業はワーク・ライフ・バランスへのサポートを、すべての従業員に等しく提供する必要がある。人事部門で使われる言葉は、「仕事と家庭」から「仕事と生活」へと変わったものの、それはいまだに幼児を持つ従業員への特権を意味しているのが実情だ。何でも欲しがる2歳児同様、その親たちは最大の分け前にあずかることが多い。働き方の選択肢は豊富にあり、休みのスケジュールも優先され、余分に休暇も取れる。父親と母親ばかり優遇する施策をとれば、「それ以外の人」は不公平だと嘆くことになる――その結果がどうなるかは、察しがつくだろう。

 第2に、ワーク・ライフ・バランスによる利点を全員が享受するためには、人々が互いに尊重し敬意を払う風土が不可欠であることを、雇用者は知るべきである。中国で英語を教えることや、チェロを学ぶこと、マラソンのトレーニング、そして子育て――何であれ、私生活での自分の選択が尊重されることを、誰もが望んでいるのだ。

 いくつかの賢明な企業は、すでに対策を講じている。

●シスコシステムズのフレックス延長プログラム
 従業員は、12~24カ月の範囲で、無給の休職が認められている。利用者の多くは出産後の休職を望む女性だが、なかには親の介護、大学院での学位取得、ボランティア活動、あるいは自分のキャリアを再考するために休暇を取る従業員もいる。

●シティグループの職場選択制度
 これはより柔軟な働き方を望む従業員に応え、さらに同社の不動産関連コストの削減にもつながる。従業員本人の希望および上司の裁量に応じて、職場を離れてオンラインや電話で仕事をする時間を決めることができる。

●デロイト・トウシュ・トーマツの個人支援プログラム
 入社後2年以上勤務した従業員は、理由を問わず、5年を上限として休職を認められる。利用者は、休職中も社内のメンターと連絡をとる必要があり、復帰時には休職前の職位を保証される(必ずしも同じ仕事内容やチームではない)。復帰直後には勤務時間を短縮し、その分をあとで補うこともできる。同社のウィメンズ・イニシアチブを推進するバーバラ・アダチは、「この制度によって人材を確保できるだけでなく、引き戻すことができます」と語る。

 企業は、子を持たない従業員に対する選択肢を増やす必要があるが、一方で子を持つ従業員にすでに提供しているものを奪ってはならない。ワーク・ライフ・バランスの恩恵は、競争によって勝ち取るものでもゼロサムゲームでもない。正しいやり方をすれば、子を持つ者と持たぬ者の両方が恩恵を得て、軋轢のない、よりよい職場が生まれるだろう。


HBR.ORG原文:How to Prevent Daddy Wars in the Workplace June 18, 2010

 

シルビア・アン・ヒューレット(Sylvia Ann Hewlett)
非営利の研究機関、センター・フォー・ワークライフ・ポリシーの創設者、所長兼エコノミスト。