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現代の知の主流である専門知に、いま制度疲労の兆候が見られる。その理由の一つに学問分野の過度の専門化が挙げられる。研究者は広く隣接領域の教養を身につける暇などなくなり、視野が狭くならざるをえない。一方、現代の喫緊の大問題はいずれも、多くの分野にまたがる複合的な性格を持っている。このような背景があり、現在「集合知」という新たな知の形に注目が集まっている。ウェブ2.0によって、一般のネット・ユーザーが自由に情報を発信でき、またそれらを互いに検索できるようになった。そのため、これまでアカデミックな権威に守られ縁遠かった専門知が、フラットで身近な知に変質しつつある。ネット集合知は知というもののあり方に新しい光を当てている。今後、集合知はさまざまな科学研究や技術開発、さらに企業活動などにも活用できると期待されているのである。
なぜいま、集合知なのか
人間は群れで生きる生物である。これはトラやクマなど、原則として単独で生きる動物との根本的な違いだ。群れをつくるのは、それが生存に有利だからで、たとえばミツバチは、餌となる蜜が見つかった場所を仲間に教え合うための、巧みなコミュニケーション行動を取ることで知られている。
人間の知のあり方も基本的にはミツバチと同じである。人々が協力してつくる知という意味では「集合知」(collective intelligence)の領域はまことに広い。だが、問題なのはその編成の仕方なのだ。本稿で言う集合知とは、いわゆる「ネット集合知」のことである。つまり、互いに面識があるとは限らない多数の人々がインターネット上で自由にコミュニケートし合うことによってつくり上げる、21世紀的な知のことを指す。