課題定義はなぜ重要なのか

 アルバート・アインシュタインは、「もし地球を救うために1時間を与えられたら、課題の定義に59分を費やし、残りの1分で分析を行うだろう」という言葉を遺した。これは至言ではあるが、筆者がこれまで見たところでは、イノベーション・プロジェクトに取り組む際にアインシュタインの教訓に注意を払う組織は稀である。

 実際、たいていの企業は、新しい製品、業務プロセス、さらには事業の開発に当たってでさえ、解決しようとする課題を定義したり、なぜそれらが重要なのかを明確にする作業を、厳密に行っているとはいえない。厳密さに欠けると、事業機会を逃し、経営資源を無駄にし、戦略にそぐわないイノベーション施策を推進するはめになる。プロジェクトがある方向に進み始めた後に、別の方向を選ぶべきだったと気づく、といった事態を何度見てきただろうか。イノベーション・プロジェクトがブレークスルーを生み出したと思いきや、「実行できない」「見当違いの課題に対処していた」と判明した、という例を何度見てきただろうか。多くの組織が適切な課題に取り組むために、適切な質問を投げかける力を磨く必要に迫られている。

 本稿では、どの組織も独力で導入できる課題定義のプロセスを紹介したい。筆者が経営するイノセンティブは、このプロセスで100を超える企業、政府機関、財団のイノベーションの質と効率、ひいては成果全般の向上を支援してきた。「チャレンジ・ドリブン・イノベーション」というこのプロセスでは、顧客組織がまずは事業、技術、社会、政策上の課題を定義して明確に示す。そしてその課題を筆者の運営するイノベーション・マーケットプレースのイノセンティブ(InnoCentive.com)上で、200カ国の総勢25万人を超える科学者や技術者など、各分野の専門家から成るコミュニティに提示する。有用なソリューションの提案者は、5000ドル~100万ドルの報酬を得ている。