我々が調査した消費者の大多数が、「ちょうどよい量の情報」と「ちょうどよい量の選択肢」を持っていると答えた。問題を感じている様子はまったく見られない。しかし、消費者の言葉ではなく、実際の行動を見てみると異なる姿が浮かび上がってくる。

 彼らは商品について調べるのに、過去よりもずっと長い時間をかけている。にもかかわらず、調査対象者の70%が、購入する時点までどのブランドを買うか決めていない。購入した後でさえも、5人に1人は正しい選択をしたか確かめるために調査を続ける。また、すでに下した購入の意思決定について不安を感じる、と答えた人は40%にのぼった。以上の結果が示唆するのは、消費者があふれるほどの製品情報と選択肢をうまく処理できずに、圧倒されているということだ。

 これが大量の情報をうまく処理する方法を身につけ、十分に適応している買い物客の行動と言えるだろうか。むしろ、情報を処理するのに苦労し、ちょっとした買い物にも不必要に思い悩んでいるのである。問題は、認知的負荷――すなわち、判断力を過剰に要求された結果、十分な意思決定ができなくなることである。

 これは消費者に限った問題ではない。認知的負荷はブランドにとっても好ましくないのだ。消費者は、購入の意思決定が難しいと感じれば感じるほど考え過ぎてしまい、その結果、何度も考えを変えたり、購入そのものを諦めたりしてしまう。事実、回帰分析によれば、意思決定の複雑さとその結果生じる認知的負荷が、購入における最大の障壁となっている。

 この現実と、消費者が多くの選択肢を望んでいるという想定について、ブランド側はどう折り合いをつければよいだろうか。賢明なブランドは、選択肢が減ったようには見せずに、選択の負荷を減らしている。たとえば、あまり人気のないSKUを削減すると、消費者が実際に認識する選択肢は増え、自分に合ったブランドを見つけやすくなり、選択が簡単になる。進歩的なブランドは、選択肢を減らさずに選択を単純化している。商品情報をわかりやすく信頼できるものにして、選択肢を比較しやすくしているのである。

 負荷のかかった消費者を救うのは、より多くの選択肢を店頭に並べることではない。意思決定の単純化である。その方法について、詳細は我々の論文「顧客は情報に飽きている」(本誌2013年10月号)をご覧いただきたい。


HBR.ORG原文:If Customers Ask for More Choice, Don't Listen May 14, 2012

 

カレン・フリーマン(Karen Freeman)
コーポレート・エグゼクティブ・ボードのマネージング・ディレクター
パトリック・スペナー(Patrick Spenner)
コーポレート・エグゼクティブ・ボードのマネージング・ディレクター
アンナ・バード(Anna Bird)
コーポレート・エグゼクティブ・ボードのシニア・リサーチャー