戦略の具体的なロジックやフレームワークを考える前に、その根本的な概念を知っておくことは無駄ではないだろう。戦略を立案するという行為には、どんな意義があるのだろうか。


 世間一般の考えとは逆に、戦略とは、不確実なものを確実なものへと変えることではない。官僚主義的な取締役や経営陣は、そうであったらと願い期待する。彼らは戦略を評価する際、その戦略が成功する証拠を求めることだろう。

 どの立場にとっても、それは大きな誤りだ。戦略立案者はみずからがコントロールできないものについて約束すれば、望んだ通りに事態が展開しなかった場合、厳しい罰を受けることになる。同時に、前もって成功を保証することにより、将来の結果は確実に予想することが可能だという、間違った見方を強めることになる。

 戦略とは実際は、競争と不確実性の下で選択を行うことである。今日の選択により、将来の不確実性が消え去ることはない。偉大な戦略が最高の働きをしても、成功の確率を高めるに過ぎない。戦略を立案する際には、どんな企業でも賭けをする必要がある。顧客が将来何を求めるか、競合はどう出るか、自社は将来何を実行できる能力を持つか、経済全般は将来どうなるか、などについての賭けである。こうした賭けのどれを取っても、確実なものはない。

戦略とは、今日できる最善の選択を行い、賭けの結果が望み通りになった場合もならなかった場合も、その結果に対応することである。つまり、戦略策定者は「こうなると私は思います」と言い、何が起こるかを観察し、戦略をアップデートし、最新の情報に基づいてまた賭けをするのだ。

 戦略が不確実性を取り除けず、繰り返し調整が必要なら、そもそもなぜ立案する必要があるのだろうか。単純に世界が動くままに任せ、それに対応すればいいのではないか――。その答えは、戦略が唯一、何に注目すべきか、どうすれば向上できるかを知る方法だからだ。

 望ましい将来像を明確に打ち出す作業――どこで戦い、どうやって勝つかの意思決定――をしておけば、その目標への進捗を確認するようになる。その将来像に向けて実現する必要がある重要な事柄を明確にしておけば、それらがどう展開しているかモニターすることができる。