本誌2013年10月号(9月10日発売)の特集は「顧客を読むマーケティング」。HBR.ORGからの関連記事の第7回は、「顧客の声」の信憑性を検証する。研究によれば、顧客は自分の意思決定を左右するものを正しく特定できないという。
皆さんの意思決定は、何に左右されるだろうか?
何が顧客や消費者に影響を及ぼし、意思決定の決め手となるのか――。どの企業にとっても、これは関心事である。この情報を得るための常套的な戦略の1つに、「顧客に尋ねてみる」というシンプルなものがある。その実施方法はさまざまだ。顧客と対面して直接話を聞く、アンケート用紙への記入やオンラインでのアンケートに協力してもらう、あるいは、アンケート調査の実施やフォーカス・グループを使った情報収集を、調査会社に代行してもらう手もある。
しかし、どのような方法を使うにせよ、「あなたの意思決定を変える決め手になるものは何ですか」と尋ねることには根本的な問題がある。すなわち、ほとんどの場合、顧客はその答えを知らないのだ。
顧客が回答してくれないわけではなく、むしろあれこれ答えてくれる。ただ、その答えが間違っている可能性が高いのだ。以下に、その理由を挙げよう。
私たちの生活は、多すぎる情報とさまざまに気を散らすものに囲まれている。こうした環境で下される意思決定の大半は、自身の自覚的な意識の外で行われ、「認識」よりも「状況」(コンテクスト)に多くを左右される。したがって、将来に意思決定を左右するものを特定してほしいと頼むことは、次のように質問するのに似ている。「あなたが将来どう行動するか、教えてください。ただし、この質問は聞かなかったと想定してください」(つまり、その時になってみなければ本当のことはわからない)。
自分の将来の意思決定と行動に、影響を及ぼすものは何か。それを予測させる質問が有効ではない理由として、行動科学者のウェズ・シュルツとロバート・チャルディーニは有力な証拠を提示している。ある研究で、カリフォルニアに住む数百人の住宅所有者に次の質問をした。エネルギー消費を抑えて支出を減らす、という方策を講じるうえで最大の決め手となるのは、次の4つのうちどれか。(1)省エネは環境に優しい。(2)省エネは未来の社会を守る。(3)省エネはお金の節約になる。(4)近所の人々の多くは、すでに省エネに取り組んでいる。
回答者は、(4)を最も影響が低いものとした。しかしメーターの記録を分析すると、行動を変えるうえで(4)が最も有力であることが判明した。回答者のほとんどがその影響力を否定したにもかかわらず、である。