多くの人はこのことを受け入れがたいかもしれないが、隣人と足並みを揃えたいという私たちの願望は、自然で一般的なものだ。最近のある調査によれば、期日までに税金を支払わない人に罰金を課すという通常のアプローチと比べて、近所の大多数の人々がすでに税金を支払ったということを知らせるほうが、ずっと効果的だという。後者の方法をとれば、政府ははるかに多くの歳入を実現できる。
私たちは、何が自分の将来の行動に影響を及ぼすかを認識するのがかなり苦手だ。のみならず、行動した後でその理由を特定することも、あまり得意ではない。ニューヨークの地下鉄の混み合う駅で行われた、ある有名な研究がある。まず、演奏中のストリート・ミュージシャンの前を通りがかった通勤者のうち、お金を寄付した人の割合を測定した。次に、研究者はある操作を行って、場に小さな変化を起こした。通勤者がミュージシャンの前を通る直前に、別の人(さくら)がミュージシャンの帽子にコインを2~3枚投げ入れたのだ。結果はというと、集まったお金は8倍になった。
その後、寄付をした人にインタビューを行った。すると、自分より先にお金を入れる人を見たという事実を、自分の行動の理由とした人は皆無だった。そして皆が、別の(間違った)理由を挙げた。「お気に入りの歌だったから」「私は気前がよい人間だから」「ミュージシャンを気の毒に思ったから」などである。
このように、意思決定と行動を左右する真の要因に迫ろうとする時、直感に反する1つの教訓が浮かび上がる。「顧客に耳を傾けるのをやめよ」というものだ。
この教訓を1行で示すだけでは、単に目を引く見出し程度にしかならない。間接的にであれ有益なものとするためには、代替案も合わせて提示すべきだろう。それは、顧客の話を聞くのではなく「顧客を観察せよ」ということだ。
ホテル業界の例を挙げよう。過去の宿泊客の多くが滞在中に同じタオルやシーツを使い続けているという事実を、新たな宿泊客に知らせることで、それに倣う客が増え、ホテル側のランドリー経費も節約できる。 どれほど多くの市場調査や顧客アンケートを行っても、こうしたことはわからなかっただろう。宿泊客は通常、過去の客がとった行動についてみずから参考にしようなどとは思わない(だから前例をホテル側が明示する必要がある)。顧客の話を聞く代わりに観察してみれば、こうした答えが出てくるのだ。
以上のことから、明白な示唆が得られる。将来の行動に関する質問事項は少数にとどめ、小規模なフィールドテストや対照研究を行い、実際の行為を観察するとよい。ほとんどの場合、そのほうが従来の市場調査のアプローチよりも大幅に安上がりだが、そこで明らかにされるインサイトは、皆さんの事業に真の競争優位をもたらす可能性がある。
HBR.ORG原文:Stop Listening to Your Customers January 30, 2013

スティーブ・マーティン(Steve Martin)
影響力に関するコンサルティングを行うインフルエンス・アット・ワークのディレクター。『影響力の武器 実践編「イエス」を引き出す50の秘訣』の共著者。