イノベ―ションを推進・実現できずに悩んでいる企業は、2つのことを知るべきである。まず、実践可能な多くの方法論がすでに確立されていること。そして、それを実践できないのは究極的にはリーダーシップの問題であることだ。
カール・ロンが最近こう言った。「自社のイノベーション能力に問題がある、と考えている企業は、実はイノベーションではなくリーダーシップの問題を抱えている」。私は関心を持って耳を傾けた。
元プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)幹部のロン(現在はエグゼクティブ・コーチであり起業家)については、拙著The Little Black Book of Innovation(未訳)の数カ所で取り上げている。とくに注目すべきは、フォーカスグループの弊害に関するロンの厳しい論調だ。彼は思慮深く、幅広い読者を持ち、経験豊かな実務家で、優れたコミュニケーション能力を備えている。
イノベーションに関する学術的研究は過去40年にわたって行われ、その結果は20年にわたって実践されてきた。そしていま、イノベーションに関する疑問の多くについて、確実で実行可能な答えが明らかとなっている――これがロンの基本的な考えだ(過去記事「イノベーションについての31の質問(と回答)」も参照)。イノベーションの機会を発見し、計画を立て実験を行うための、確実なツールは既にある。戦略面での不確実性に対処し、イノベーションの土台を組織につくり、「既存事業の運営」と「新規事業の創造」が生む対立をうまく管理することは可能である。
IBMやシンジェンタ、P&G、3M、ユニリーバなどの大企業は、イノベーションとは再現可能な規律であることを教えてくれる。グーグルやアマゾンなど成功した新興企業は、イノベーションを創業初日から組織文化に根付かせることができると教えてくれる。
しかし、こうした発展を遂げているいまもなお、実際に大企業がイノベーションの課題に自信を持って取り組んでいるのを目にすると、驚く人々が多い。
それはなぜか。拙著Building a Growth Factory(未訳)のなかで、私と共著者のデイビッド・ダンカンは、少なくとも1つの根本的な原因を示した。それは、多くの企業がシステム的な課題に対して、局所的なソリューションを用いようとすることだ。アイデア・コンテストを開こう! アイデア出しのブレストをしよう! 成長事業を担当するチームをつくろう! 企業内ベンチャー部門を立ち上げよう! イノベーションに対するインセンティブを設けよう!
どれも、悪いことではない。だが、局所的なソリューションでは、システム的な問題は解決できない。ダンカンと私は4つのシステムに取り組むことを提案している。「成長の青写真」「製造システム」「ガバナンスとコントロール」、そして「リーダーシップ・人材・文化」だ。このすべてに取り組むのは簡単ではないが、イノベーションをある程度の規模で実現させたいならそうする必要がある。