ロンもこの意見に賛成だ。しかし、このようなシステムを機能させる責任を負うのは、結局は企業の経営陣であることを指摘した。実は、これは絶対的に必要なことである。クレイトン・クリステンセン、リタ・マグレイス、リチャード・ダベニー、リチャード・フォスターらの研究では、私たちが生きるこの新時代では、競争優位とは一時的なものである、ということが明確に示されている。マグレイスの新著はThe End of Competitive Advantage(未訳。「競争優位の終焉」)という挑発的なタイトルだ。イノベーションを戦略上の優先事項とせず、イノベーションに十分な投資を行わず、この問題に戦略的にアプローチしない幹部は、不正行為を犯していることになるのだ。

 さらに、リーダーは単に状況を整えてイノベーションが起こるのを待っているだけではだめだ。イノベーションは多くの企業にとって、十分に不自然な行為である(ほとんどの企業は昨日のビジネスモデルを拡大するためにつくられており、明日のビジネスモデルを探すためではない)。したがって、最高経営層が日々注意を払わなければ、組織にイノベーションが根付くことはない。

 リーダーは、2つのまったく異なる業務システムを管理しなければならない。1つは現在の事業の間違いを最小化し、生産性を最大化するシステム。もう1つは将来の事業に関する実験を奨励し、学びを最大化するシステムである。このどちらかではなく、両方を管理する必要がある。

 では、何がイノベーションという課題に立ち向かおうとするのを阻んでいるのだろうか。リーダーたちが挙げるのは次のような点だ。短期的な成果を求める投資家からのプレッシャー、人材不足、イノベーションに適した報酬体系を導入することの難しさ、イノベーションが依然としてつかみどころがないこと。そして率直な意見としては、イノベーションをリードするのに必要なマインドセットにリーダー自身が馴染んでいないこと。

 以上の点は現実的な問題で、いまだ包括的な解決がなされていない。だが前向きなリーダーは、アマゾンのジェフ・ベゾスのアドバイスを真摯にとらえるべきである。すなわち、イノベーションには「長期間にわたって誤解される覚悟」が必要なのだ。

 いまこそリーダーは、ステップアップしなければならない。イノベーションについて発言するだけでなく、みずから関与し、投資するのだ。局所的なソリューションから抜け出して、もっと体系的な方法に移行しよう。同業他社のなかで最もイノベーティブな企業になることではなく、アマゾンやピクサー、3M、IBMのようなイノベーションを起こすという高い目標を持つのだ。今日は贅沢なように思える行動も、明日には不可欠なものとなる。だから、いま始めよう。


HBR.ORG原文:Your Innovation Problem Is Really a Leadership Problem February 13, 2013

 

スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイト マネージング・ディレクター
ダートマス大学の経営学博士・ハーバード・ビジネススクールの経営学修士。主な著書に『明日は誰のものか』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(共著)などがある。