見えない変化に目を向けよ
普通のレギュラーコーヒーはロースターさえあれば誰でもつくれるため、利益率は非常に低い水準にありますが、インスタントコーヒーは技術を有する会社も限られるため、利益率は高水準にありました。
この「儲からない」レギュラーコーヒーのビジネスに対して、「儲かる」ビジネスモデルをつくったのが<ネスプレッソ>でした。さらに、これをより安価にさまざまな種類のコーヒーを楽しめるように<ネスカフェ ドルチェ グスト>が生まれました。

奥:高岡浩三氏 手前:弊誌編集長
ただ、<ネスカフェ ドルチェ グスト>の豆はインスタントと比較すると高価なものとなっていました。それでも売れた理由、それは世帯構成が変化してきたことにありました。世帯人数の減少や、家族が一緒にコーヒーを飲むシーンが減ったことにより、コーヒーを一杯ずつ抽出する必要性が増していました。それが見事にマッチしていたのです。このニーズを読んで「儲かる」インスタントコーヒーについても<ネスカフェ バリスタ>が開発されました。このように、<ネスカフェ>ブランドは新たなビジネス・モデルを築き上げ、大きな利益を生み出すこととなりました。
このような目には見えない変化に目を向けることがマーケティングでは非常に重要であり、ビッグデータがこれから非常に重要なツールとして活用されるのは間違いないが、データだけ見ていては本物のブランドをつくることはできない、と結ばれました。
質疑応答
講演の後はさまざまな質問が発せられました。それに対して、「日本人は物事の本質を考える力が足りない。これは思考の訓練によって得られるものであり、だからこそ多様性は大事である」「特に日本では競争が同質的であるため、競争優位に立つにはエモーショナルな部分が重要。消費者がブランドにありがとう、と言ってくれるようなブランドをつくりたい。そのためにはパートナーを見つけ、顧客体験を提供するのが一番効果的」「自分のブランドを必要以上に好きになると見誤る。常に批判的な目線を持つ冷静さと両方を持つことが重要」等々、具体例を交えて丁寧に回答してくださいました。
最後は時間が少々オーバーするほどで、名残り惜しくも盛会のうちに勉強会を終了いたしました。
具体事例とともに業界内の深い話も盛り込んで、大変興味深いお話をいただいた高岡様、ならびにご参加いただいた皆様に深く御礼申し上げます。
次回は11/8(金)、佐藤克宏氏(マッキンゼー・アンド・カンパニー プリンシパル)を迎えての勉強会を開催予定です。参加希望の方は、奮ってご応募ください。
高岡 浩三(たかおか こうぞう)
ネスレ日本 代表取締役社長兼CEO。1983年、神戸大学経営学部卒、ネスレ日本入社。各種ブランド・マネジャー等を経て、ネスレコンフェクショナリー マーケティング本部長として〈キットカット〉受験キャンペーンを成功させる。2005年、ネスレコンフェクショナリー代表取締役社長に就任、2010年、ネスレ日本代表取締役副社長飲料事業本部長として新しいネスカフェ・ビジネスモデルを構築。同年11月ネスレ日本代表取締役社長兼CEOに就任。現在、経済同友会幹事、医療・福祉ビジネス委員会副委員長、農業改革委員会副委員長。日本インスタントコーヒー協会会長。2014年より、世界的マーケティングフォーラム「ワールド・マーケティング・サミット」の日本人初ボードメンバーとして迎えられる。最新刊に『ゲームのルールを変えろ』(ダイヤモンド社)。