企業セオリーはポジショニングに勝る

 企業幹部たちに「戦略とは何か」と問えば、おそらく大半の人は次のような定義をひねり出すだろう。「魅力的な市場を見つけてそこに狙いを定め、その市場で競争優位を持続できるようなポジションを巧みに構築すること」──。そのようなポジションは、自社の経営資源と企業活動をうまく組み合わせて調整し、顧客に独自のバリューを提供するか、もしくはありふれたバリューを低価格で提供することにより、獲得できる。

 このように戦略を「ポジション」としてとらえる見方は、世界中のビジネス・スクールでいまだに履修課程の中核を占めている。他社が真似たり盗んだりできない価値あるポジションこそが、継続的な収益の源泉になるというわけだ。

 しかし残念ながら、ポジションを築き、守るだけの仕事で上級幹部が投資家から報酬を得ることはできない。資本市場を見渡せば、強力なポジションにいながら株価の冴えない企業は山ほどある。小売業界の巨人ウォルマート・ストアーズはその典型例だ。同社がいまでも出色の企業であることに異論のある人はまずいまい。黎明期には小さな町に店舗を網の目のように張りめぐらすことに集中し、有利なポジションを築くことができた。いまだに同社は、広告やプライシング、ITなどに関する選択をする際に、低価格で融通の利く取引を続けている。