学習優位を増幅される経営モデルとして「X経営」を紹介する本連載。今回はユニクロを展開するファーストリテイリングを例に、多業種と緊密に連携する事業モデルを紹介する。
このシリーズでは、学習優位を増幅させる経営モデルとして、「X経営」をご紹介している。「オペレーション力」を基軸としつつ、その上で、「事業モデル構築力」と「市場開拓力」をツインエンジンとして掛け算(X)させて駆動している経営モデルである。
「X経営」を実現するための切り口となるのが、3つのX(①X(エクス)テンション、②X(クロス)カプリング、③X(トランス)ナショナル)である。本稿では、その第2の切り口を、ファーストリテイリング(FR)を例に取って検証してみよう。なお、筆者は昨年から同社の社外取締役を兼務しているが、ここではあくまで客観的な立場で論じることとしたい。
ユニクロのビジネスモデルを支える
戦略的パートナーシップ
FRは1994年に上場したため、今回の失われた20年の勝ち組リストの番外となった。しかし、同年以降の15年間をみると、FRは「売上高」「営業利益」「時価総額」の3つの指標すべてでダントツNo.1の成長を遂げている。
グローバルなアパレル業界では、ZARAやH&Mに代表されるファストファッションが急成長を遂げている。彼らは、サプライチェーンの徹底的な短期化によって、店頭に並べてみて実際に売れ筋になってから量産するという高速・高効率な事業モデルを確立している。
これに対してFRは、売れるべくして確実に売れるものを、予め見極めようとする。そのためは、嗜好性の強いデザインだけで勝負するのではなく、素材の開発から始めなければならない。この逆転の発想から生まれたものが、フリースであり、ヒートテックだ。さらには、サラファイン、ウルトラライトダウン、エアリズムなどへと広がっていく。
FRの本質的な強みは、このように、いつまでも定番であり続ける機能性のアパレルを生み出し続ける力だ。しかも、定番とはいえ、素材は毎年毎年改良され、進化している。
FRは、自らが切り開いているこの新しいジャンルを、「ライフウェア」と呼んでいる。服を通じて、すべての人(made for all)の生活の質(Quality of Life)の向上に貢献し続ける、という思いを込めたものだ。
このように、FRの基本戦略は、ファストファッションとは発想も、狙いも、時間軸もまったく逆張りである。ここに同社の事業モデル構築力が力強く脈打っている様が、見て取れるだろう。
ではなぜメーカーではないFRが、高機能商品をこれだけ矢継ぎ早に開発することができたのか?この爆発的な商品開発力が、東レとの戦略的パートナーシップによるところが大きいことは、よく知られている通りだ。
フリースが発売される1998年の直前、柳井正CEOが全役員を引き連れて、東レに全面的な協力を求めた。相手は、中興の祖とも言われる前田勝之助会長(当時)。
当時から柳井氏は「いずれ世界一になる」と豪語していたものの、みな半信半疑。東レの社内でも「ユニクロ? 何でそこと組まなければいけないのか」という意見が噴出したという。
しかし、前田氏は柳井氏の熱意に賭けて、「バーチャル・カンパニー」の立ち上げに合意する。それは、お互いが1つの企業体になったかのように一体となって開発を進めるという仕掛けだ。