ある若い男性は私へのメールで、ブルーナイルで買わない理由は「中古車をイーベイで買わないのと同じだ」と書いている。「車は走行距離や年式、メーカーやモデルだけではない(変な匂いがしないか、スムーズに走るか、なども考慮する)。同様に、ダイヤモンドも4Cだけでは決まらない」。私の友人は、彼には自分自身の感情を尊重する傾向があると見たが、彼は購入において「自信よりも価格を優先」し後悔のあまり眠れなくなる、ということを避けたかったのだ。ここがポイントだ。つまり、ブルーナイルのオンライン店舗は、「指輪の選択において完璧な自信を持つ」という彼のタスクを果たすことができないのである。

 もちろん、ダイヤモンドの婚約指輪を買う男性のなかには、さらに別のタスクを果たしたい人もいる。ステータスを示すことだ。彼らに対しては、高級ブランド店が向いている。

 どれほどブルーナイルが努力しても、上記の2つのタスクを果たし、ティファニーや実店舗の同業者と競い合うことはできないだろう。そうするためには、ビジネスモデルの大きな障壁を乗り越えなければならない。競争のスタートラインに立つには、実店舗のネットワークを築き、ダイヤモンドの実在庫を持ち、十分に効果を発揮する継続的なマーケティング活動に投資する必要がある。これを実行したら、同社のコスト構造は完全に崩れ、高価格をつけざるをえず、競争優位を失うことになる。

 では、従来型のダイヤモンド販売店はどう動けばいいだろうか。ローエンドの破壊者と直接対決するのではなく、彼らが果たせないタスクに磨きをかけるべきだ。ティファニーであれば、高級なイメージを深化し、ステータスを示すというタスクにフォーカスし、低価格の〈リターン トゥ ティファニー〉のラインは廃止する。ティファニーの青い小箱を誰もが手に入れられるものにしたら、その特別なブランド価値は損なわれ、ステータスを表す力も弱まる。

 ゼールスやジャレド(Jared)など中間クラスの小売業者がフォーカスすべき顧客は、「恋人が欲しがる物を、間違いなく買っている」という自信を持ちたい人たちだ。このタスクを果たすには、たとえば店舗で「ダイヤモンド・ナイト」などを開催したらどうか。友人どうしで立ち寄り、ダイヤの指輪を試せるイベントである。来店した女性がお気に入りの指輪を見つけたら、それを店に登録する。店は女性の友人や恋人がその情報にアクセスできるようにしておく(尋ねられた時に公開するのが望ましい)。ガールフレンドがある特定の指輪を気に入っているとわかれば、指輪を買おうとする男性は(予算が許せばだが)、彼女をがっかりさせないようにと店を探し回ることがなくなるだろう。

 理論のうえでは、比較的単純なことのように見える。では、なぜ現実にはとても難しいのか。どの企業も、破壊に直面した場合、まったく勝てないとは認めたくないのだ。しかし、時に一部の顧客を手放すことは、絶望の末の行動ではない。むしろ、ブランドを本来あるべき場所に戻すことなのだ。


HBR.ORG原文:Blue Nile's Cheaper Diamonds Need Not Threaten Tiffany. Here's Why. December 5, 2012

 

ディナ・ワン(Dina Wang)
ハーバード・ビジネススクールのフォーラム・フォー・グロース・アンド・イノベーションの研究員。