本誌2013年11月号(10月10日発売)の特集は、「競争優位は持続するか」。HBR.ORGの関連記事の第6回は、ジュエリー業界における競争優位を取り上げる。婚約指輪をオンラインで安く販売し破壊者となった、ブルーナイル。同社の脅威に対し、既存の宝石商と高級ブランドは何をすべきなのか。


 ティファニーのダイヤモンドを、アスター家の人々はいくつも身に付けた。マリリン・モンローは映画のなかで、それを「女の子の1番の友達」と呼んだ。オードリー・ヘップバーン扮するホリー・ゴライトリーは、ニューヨークにあるティファニーの旗艦店を「地球上で最高の場所」と言った。

 だが今日では、ダイヤモンド購入者の大きな一角を占める人々――プロポーズをしようとしている男性――にとって、ティファニーの高貴な青い小箱は答えではない。彼らが選ぶのはオンラインの低価格ダイヤ販売業者、ブルーナイル(Blue Nile)である。ブルーナイルの脅威を一番感じているのは、小規模な宝石店だ。しかし次第に、ゼールス(Zales)などの中間クラスの小売業者も、さらにはティファニーやカルティエといった最高級ブランドもその脅威を感じるようになっている。

 では、高級ダイヤ販売店はブルーナイルにどう対処すべきか。答えは直感に反するかもしれないが、「何もしない」ことだ。私のハーバード・ビジネススクールの同僚であるクレイトン・M・クリステンセンとマクスウェル・ベッセルが「破壊的イノベーションの時代を生き抜く」(本誌2013年6月号)で説明しているように、既存の企業は自社の相対的な強みにフォーカスしたほうがよい場合もある。破壊者との正面対決は避け、市場の一部を譲るのだ。

 ブルーナイルの1番の強みは、ダイヤの指輪をオンラインで、従来の小売店より最大35%も安く販売していることだ。同社の基本的な考え方は、ダイヤモンドルース(研磨済みで、指輪への加工前の石)はコモディティである、というものだ。男性がダイヤを選ぶうえで必要なのは、いくつかの計測可能なデータ(たとえば4Cと呼ばれる、カラット、カット、カラ―、透明度)と、何枚かの写真、それに価格だけだとしている。また、同社はダイヤのことを学べる使いやすいツールを提供し、大量のバーチャル在庫を有する(同社はダイヤの卸売業者の仲買人的な役割を果たしている)。指輪を探す手早さと値ごろ感を優先し、ノーブランドであることをいとわない男性にとって、ブルーナイルが最適であるのは明白だ。

 ダイヤそのものに予算の全額(石のサイズにかかわらず)を使いたい男性にとっては、ブルーナイルはよい選択肢となる。だが一方で、予算の一部を個人に向けられたサービスや特定のブランドに対して払いたい人もいる。こうした顧客は、ブルーナイルの顧客とは異なる「果たすべきタスク」を持ち、こちらへの対応はブルーナイルよりも従来型の業者のほうがうまい。

 たとえば、最適な指輪を見つけられるか心配なので宝石商に頼りたいという男性にとっては、実店舗のほうが安全だろう。店舗では、それぞれのダイヤの輝きを自分の目で確かめられるし、店員の芸術的センスをあてにして直接相談することもできる。高級ブランド店では、商品は社会的にもお墨付きをもらった、プロのデザインによるものだと確信できる。