自社のポジションを守るために、既存の大手企業も新規参入者も等しく考慮すべきことがある。エコシステムの管理と活用だ。垂直統合か水平分業か、という二者択一を超えて、エコシステム内で価値を自社に引き寄せる戦略の一端を紹介する。本誌11月号(10月10日発売)特集「競争優位は持続するか」の関連記事、第9回。
ブラックベリーがたどってきた経緯からは、私たちを取り巻く競争環境の新たな真実が浮かび上がってくる。すなわち、成功と失敗を左右するのは、製品やサービスの良し悪しだけではない。経営やコスト効率、資本構成の健全性だけでもない。エコシステム(生態系)を管理するための効果的な戦略が必要なのである。
ブラックベリーはこの点で失敗した。同社はきわめて高いロイヤルティを持つ既存顧客に安心しきってしまい、競合他社のエコシステムがもたらす脅威に気づかなかった。過去の多くの大手企業と同じ轍を踏んだのだ。すなわち、ネットワークの接点となり補完関係にあるプレーヤーの活力を利用する機会――アップルがアプリで実践している方法――をモノにできなかったのである。
しかし、伝統的な大手企業が常に価値獲得ゲームで負ける運命にあるわけではない。カードを正しく切れば、優位性を維持し、最終顧客に対して訴求力のある価値提案を実現し、サプライヤーと補完プレーヤーをけん制することができる。
ペンシルベニア大学ウォートン・スクールのジョン・ポール・マクダフィーと私は、HBR誌の掲載論文で、産業エコシステム内の価値の移転に関する研究結果を報告した(邦訳は本誌2014年6月号「バリューチェーン 覇者の条件」)。たとえば1980年代のコンピュータ部門では、かつてのIBMのような統合型の巨大企業から、マイクロソフトやインテルなど産業エコシステムから出現した新しい専門型企業へと価値が移転した。業界内でこのように価値の中核が移転する理由を、我々は検証した。
一方、自動車などの部門は、変革やバリューチェーン再構築の必要性を叫ぶ声に反して、驚くほど安定していた(価値は移転していない)。自動車の場合、大規模なアウトソーシングが生じているにもかかわらず、(エコシステム内の時価総額の配分という点で)価値を握っているのはいまだに自動車メーカーであり、ますます増えている部品メーカーではない。
我々の研究は、価値の移転を左右する要因を説明するものである。成功している企業は、自社のエコシステムを積極的に管理し、階層的で閉鎖的な供給ネットワークを築き、サプライヤーたちと協業を続けている。IBMは1980年代に、一連の標準化を通じて自社のコンピュータ部門をオープンにするという過ちを犯し、それが最終的に部門の崩壊へとつながった。対して今日のアップルは、自社の価値提案を支えるサプライヤーや補完プレーヤーを慎重にコントロールしている。