4.人材(People)
中核となる価値観を共有する人材、あるいは価値観を尊重する意志と能力を持つ人材なくして、一枚岩の企業文化を築くことはできない。世界で最も偉大な企業が、非常に厳しい採用方針を取り入れているのはこのためである。投資アナリストで著述家のチャールズ・エリスの著書What it Takes: Seven Secrets of Success from the World’s Greatest Professional Firms(2013年2月、未訳。「世界の最も偉大なプロフェッショナル企業から学ぶ、成功の7つの秘密」)によれば、最も優れた企業は採用において「能力的に優秀なだけでなく、特定の企業文化に最も適した人材を採用することに並外れた情熱を注いでいる」。これらの企業では採用候補者1人につき、8~20人が面接にあたっているという。
文化に見合った人材を採用するさらなる恩恵について、スティーブン・ハントはMonster.comにこんな記事を寄せている。ある調査によれば、文化に合致している志望者は、給与を7%低い額で受け入れる傾向が見られ、文化をしっかり共有している部門では離職率が30%低かったという。人はみずからが好む文化には忠実なのだ。適切な「文化の担い手」を育てることにより、組織がすでに有している文化をいっそう強化することができる。
5.ストーリー(Narrative)
マーシャル・ガンツはかつてシーザー・チャベスの全米農業労働者組合運動の中核にいたことがあり、またバラク・オバマの2008年の大統領選挙活動では、組織基盤の構築に力を貸した。現在はハーバード大学ケネディ・スクールの教授であるガンツは、ストーリーの持つ力を研究・教育対象の1つとしている。どんな組織にも独自の歴史、つまり独自のストーリーがある。その歴史を掘り起こしてストーリーを紡ぎ出す能力は、文化形成の核となるものだ。
なかには、コカ・コーラのように公式なものもある。同社は過去の伝統を受け継ぐことに莫大な経営資源を費やしており、アトランタにワールド・オブ・コカ・コーラ博物館まで所持している。あるいは非公式なストーリーの場合もある。スティーブ・ジョブズが若い頃カリグラフィーに魅了されたことが、アップルにおける美しさを重んじる文化の形成に寄与した、という話のように。こうしたストーリーは、企業の現在進行中の文化の一部として認識・形成され、繰り返し語られうことで、よりいっそう強力なものとなる。
6.場所(Place)
なぜピクサーは、社内に(チームごとのスタジオではなく)1つの広大で開放的なアトリウムをつくり、人々が予期せぬ相手と始終遭遇し、非公式で偶然の交流が生まれる環境を設けているのだろうか。なぜニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグは、防音ドアで遮られ独立した執務室ではなく、大部屋でスタッフに囲まれて仕事をするのを好むのだろうか。また、なぜハイテク企業はシリコンバレーに集まり、金融会社はロンドンやニューヨークに集まるのだろうか。
これらの問いにはもちろん多数の答えがあるが、1つ明白なのは、場所が文化を形づくるということだ。開放的な建築構造は、職場における特定の行動様式――コラボレーションなど――を促進する。都市や国によっては、会社が形成しようとする文化を強化、あるいは否定するような地域文化が存在する。立地、建築構造、美観設計など、場所というものはその職場で働く人たちの価値観や行動様式に影響を及ぼすのだ。
文化に影響を与える要因は他にもある。だがこれら6つの要素は、新たな組織文化を築くうえで強固な基盤を成すものだ。そして変革を必要としている企業にとっては、現在の組織の中でこれらをより明確に見極め、十分に理解することが、文化の再生や再構築への第一歩となる。
HBR.ORG原文:Six Components of a Great Corporate Culture May 6, 2013

ジョン・コールマン(John Coleman)
著述家。Passion & Purpose: Stories from the Best and Brightest Young Business Leadersの共著者。