ある企業の魅力度や競争力、問題点を考えるうえで、文化を抜きにしては語れない。企業文化の最も基本的かつ重要な、6つの構成要素を改めて見つめ直してはいかがだろう。本誌2013年12月号(11月9日発売)の特集「理想の会社」の関連記事、第6回。


 優れた企業文化が利益をもたらすことは、直感的に理解できるが、社会科学によっても裏付けられている。ハーバード・ビジネススクール教授のジェームズ・L・ヘスケットによれば、優れた文化は「“文化的に凡庸な”競合他社と比べた場合、企業業績の差の20~30%を説明しうる」という。HBRのブログ執筆者たちも、文化についてさまざまな助言を提供している。たとえば地域文化の多様性への対処法、文化を重視した職選び、文化を変革する秘訣、異なる文化の出身者へのフィードバック方法、などだ。

 しかし、そもそも企業文化とは何によって形成されているのだろうか。文化はそれぞれが独特であり、1つの文化は無数の要素から形成されている。しかし私は、優れた文化に共通する少なくとも6つの構成要素を見出している。これらの要素を特定することは、差別化された文化と長続きする組織を築くうえでの第一歩となるだろう。

1.ビジョン(Vision)
 優れた文化はビジョン(もしくはミッション)・ステートメントから始まる。簡潔な文句は企業の価値観を導き、企業に目的を与える。そしてこの目的が、従業員のあらゆる意思決定を正しい方向に導く。優れたビジョン・ステートメントが信憑性に富み、明確な形で示されていれば、顧客やサプライヤー、その他の利害関係者をも導くものになる。

 非営利団体は往々にして、説得力のある簡潔なビジョン・ステートメントを掲げるのが上手である。たとえばアルツハイマーズ・アソシエーションは「アルツハイマー病のない世界」を目指し献身している。オックスファムは「貧困のない公正な世界」を目指している。ビジョン・ステートメントは、シンプルだが文化の基盤を成す要素である。

2.価値観(Values)
 価値観は企業文化の要である。ビジョンは企業の目的を明確に示すが、価値観はビジョンの達成に必要な行動様式や考え方について一連の指針を提示する。たとえばマッキンゼー・アンド・カンパニーは、明確に打ち出された一連の価値観を全従業員に周知させている。これらの価値観はクライアントへの誓約、同僚への接し方、プロフェッショナルな基準の維持に反映される。グーグルの価値観は、同社の有名なスローガン、「邪悪になるな」(Don't be evil)によって最も明確に示されているかもしれないが、「Googleが掲げる10の事実」にも明記されている。多くの企業は、価値観を少数の単純なテーマ(従業員、クライアント、プロフェッショナリズム、等)を軸に展開しているが、大事なのはその独創性よりも信憑性である。

3.慣行(Practices)
 価値観はもちろん、企業の慣行に反映されなければほとんど意味がない。「私たちの最大の資産は人です」と明言するなら、目に見える形で人材に投資しなくてはならない。スーパーマーケット・チェーンのウェグマンズは、「思いやり」や「敬意」といった価値観を打ち出し、同社に応募してきた人に「愛すべき仕事」を約束している。業務慣行においても価値観を貫き通し、フォーチュン誌発表の「最も働きがいのある企業ベスト100」の第5位に入っている。

 また、組織がより「フラット」な階層を重んじるのであれば、チームの若手や下層のメンバーがためらうことなく異議を唱えられるようにすべきである。そしてどんな価値観であろうと、業績評価や昇進の基準にしっかり反映され、日々の業務原則の中に組み込まれなければならない。