顧客の心を汲み取り、「スゴイ!」と感じる経験を創り出す従業員がいる一方、通常業務以上のことをまったく思いつかない従業員もいる。その違いはどこにあるか。ベイン・アンド・カンパニーの好評連載、第9回。
ダラス在住の私の友人は、地元のチックフィレ(米国のファーストフードチェーン)が大好きである。あるとき、そこのホゼという名の従業員が、友人の三歳の子どもに床磨きを手伝うように言った――そして子どもをモップの上に乗せ、レストラン中を回るツアーを提供したのだ。友人にとってこれは「スゴイ!」と言わせるような経験で、人に伝えたい普通ではない体験だったとのことだ――こうした体験は、その企業を推奨することにつながる。
私が一番好きな事例は、クラウド・コンピューティングとホスティングサービス企業のラックスペースで起こった出来事である。顧客と長時間に亘りトラブル解決作業の話をしていたスタッフが、電話越しに顧客が誰かにお腹がすいていると言ったのを聞いた。そのスタッフはこう話す「私はお客様との電話を一旦保留にして、お客様にピザをオーダーしました。30分後、私とお客様はまだ電話で話をしていましたが、お客様の向こうで誰かがドアをノックしたようでした。私は、「ピザ屋だから玄関を開けて下さい」と伝えました。お客様はとても興奮していました。」
私も、その空腹の顧客であったらかなり興奮したと思う。また一つ「スゴイ!」という瞬間だ。
これらの「スゴイ!」経験について何か気づいたことがあるかもしれない。大した費用はかからない、ということだ。私はそれを「節約版スゴイ!」と呼んでいる。このような方法で顧客に笑顔をもたらす企業は、わずかな費用で大きな信用と口コミの宝庫を得られるようになる。
従業員がこのような行動をする動機はあるだろうか?そうした従業員が思いやりのある人達であることは間違いないだろう。他人を幸せにすることが彼ら自身の幸福をもたらすのだ。だが、他の企業の従業員で同じように思いやりがあっても、顧客に追加で何かを提供しようとは考えない人達が大勢いる。彼らは、通常業務以上のことをするということを思いつかないのだ。
チックフィレとラックスペースが他の企業と異なる点は、彼らが「黄金律」と呼ばれる企業文化を創り上げたことだ。従業員は、自分が顧客であったらしてもらいたいように顧客を扱う。ラックスペースは、これを 「熱狂的なサポート」と呼び、同社の競争力の礎と見なしている。以前記事で紹介したようにチックフィレのCEOダン・キャシーは次のように言っている「我々は多くの人が心から欲してやまない経験をしていただくために大いに努力をしている――それは、尊敬と敬意を持って対応されることである。実際にはそういう体験ができる機会は限られているようだ」