この方針によって、以下のメッセージを明確に伝えようとした。素早く動き、素早く繰り返せ。起業家精神を持て。高い成果を目指し猛進すると何かを破綻させるのではないか、という恐れを捨てよ。経営幹部が支援しているのだから。
失敗の評価基準に基づいて、自由に起業家精神を発揮するようチームに告げた私の言葉について、PBS内のより大規模な他部門には異なる解釈をする人々もいた。デジタルチームが規律に従わずに行動する権利を欲している、という見方だ。そこで、我々は右脳と左脳を持つデジタルチームをつくることにした。非直線的で右脳的な、スタートアップのような思考(起業家的、素早く動く、リスクを恐れない)を奨励する一方で、すべての取り組みにおける目標設定、評価基準、KPI(主要業績評価指標)を左脳的な厳密さでフィルターにかける。KPIを使うと、失敗をしてもそれが手を抜いた結果ではなく、規律に基づいたものだと確認できる。
見事な皮肉ではあるが、この失敗の評価基準そのものが、最初は失敗に終わった。当初はこの評価基準を、各従業員の年間業績評価に含める公式なKPIにしようと考えていた。しかし我々はすぐに、それが矛盾を生んでいたことに気づいた。年に一度の業績評価を変えても、素早い行動を重視する文化は築けない。リスクをとること、素早く失敗することの必要性を、毎日のように強調する必要があったのだ。
そこで、一定の期間内における失敗の不足を測定するKPIを、人事部とともに考案するということをやめた。かわりに、「失敗は義務である」というメッセージを絶え間なく発信することにした。
すぐに大きな変化が現れた。新しい文化に馴染めない一部のスタッフは去っていった。それ以外の人々は、リスクをとりはじめた。プロダクト・マネジャーは、子ども向けサイトPBSKids.orgで、最初のAR(Augmented Reality:拡張現実)の導入に取り組んでいた。彼女は顧客調査とテストに何カ月も費やすという計画を投げ捨て、10週間という短期間で立ち上げた。そして失敗した。その結果、彼女はボーナスを受け取り、その「賢明な失敗」は彼女の年間評価のなかで最大の成果とされたのである。
特筆すべきは、このARサイトに関する失敗から得られた教訓が、ジェスチャーを使った一連のゲームの開発につながったことである。これらのゲームは現在、PBSKids.orgのなかで最も人気のあるコンテンツとなっている。
デジタルチームがリスクをとり始め、それによって報酬を得るようになると、我々はこの新しい文化を制度化し、リーン・スタートアップのプロセスを日常的なものにしようと動き出した。
開発チームは迅速に動いた。まずはリスクをとったスタッフを公式に表彰することから始めた。たとえば、デザイン・ディレクターは従来の求人広告を、インフォグラフィックス(情報を視覚的にわかりやすく表現したもの)を用いた募集要項に置き換えた。その結果、素晴らしい応募者を何人も集めることができ、評価された。
重要なのは、我々が成功の定義を変えたことだ。ウェブ動画の制作に乗り出した当初、「ペアレント・ショー」というテレビ番組のような安全なものをつくった。評価はまずまずだったが、チームは勝利を宣言したい誘惑には負けなかった。そしてPBSの型を破り、YouTube専用のショーを制作したのだ。