1.UXにリーンのアプローチを取り入れる
UX思考を製品開発チームに根付かせる最良の方法は、デザインを特定の能力として重視することではない。スタートアップ市場に触発されている企業の多くは、顧客インサイト、参加型デザイン、プロトタイピングを活用し、無駄のない(リーン)、迅速(アジャイル)な製品開発プロセスを試みている。UXの取り組みにおいて、市場でユーザーが持つ特定のニーズを発見すること、および顧客からのフィードバックを得るためにプロトタイプをいち早く作成することをチームに要求すれば、製品開発におけるリーンのアプローチはいっそう促進される。このプロセスを確立しているSAPは、一部の新製品の発売に際し、開発プロセスを3カ月に短縮することに成功している。リーンの手法を用いれば、UXの取り組みは現実的で効率的なものとなり、「デザインは時間がかかる」という先入観を払拭できる。
2.UXを研究開発に組み入れる
近年では、一連の新たなツールの登場によって、技術環境は驚くほど変化している(HTML5、ソフトウェア・ハードウェアを自作できる〈アルドゥイーノ〉のようなキット、安価な3Dプリンタなど)。こうしたツールによって製品チームは、以前よりはるかに迅速に、新たな製品・サービスのコンセプト段階でUXの実験を行えるようになった。そのメリットは技術的なレベルにとどまらない。UXを重視した研究開発によって、企業は職能横断的な能力を持つ人材を確保することができる。たとえば、「エクスペリエンス」に配慮しながらコーディングに取り組むようなエンジニアだ。UXの実験は、製品開発チームを長大なパワーポイントやPRD(製品要求仕様書)の作成ではなく、UXのプロトタイプ作成に集中させる役目を果たす。また、経営陣がCES(世界最大の家電展示会)で見せびらかすための製品デモのネタを、豊富に提供できるようになる。
3.UXで少しずつ成果を上げる
すでにあなたの会社は、アプリ市場に進出して成功や失敗を経験している頃かもしれない。アプリ市場は多くの事業にとって、必ずしも収益を押し上げるものではないが、組織のUX能力を磨く恰好の舞台ではある。
ブルームバーグの例を見てみよう。同社のユーザーインターフェースはこれまで、同社固有のターミナルシステムに縛られていた。しかし優れたiOSアプリを投入したことで、より広範な市場における人々の認識を改めることに成功した。ブルームバーグの主要顧客層は高齢化している。そして新たにウォール街にやって来るのは、iPad時代に生きる若い世代のトレーダーたちだ。彼らは、既存のターミナルが提供するユーザーエクスペリエンスとはまったく異なるものを望んでいる。ブルームバーグのiPhoneアプリが同社の業績を大きく左右するわけではないが、同社が持つ可能性に対する周囲の見方を変えたのは間違いないだろう。最近、リサ・ストラスフェルド(有名なデザイン企業、ペンタグラムの元パートナー兼顧問デザイナー)をデータ・ビジュアライゼーション部門のグローバル責任者に迎え入れたことも、同社がデザインへの関心を一新したことをはっきりと示すものだ。