4.UXをシックス・シグマのような位置づけにする
 優れたUXには、「より多く」ではなく「より少なく」という考えが必要である。これは今日の技術文化においては、容易ではないかもしれない。ミドルマネジャーは通常、製品の機能やリリースが少ないよりは多いほうが評価されるからだ。ブランド・リーダーは、広範囲にメッセージを発信したり、高次のガイドラインを示したりすることで、組織を遠方から舵取りするのが一般的である。一方UXは、製品開発プロセスに深く関わることができる。しかし、優れたUXの構築にはある程度の権力が必要である。企業のUX戦略にそぐわない製品であれば、発売を遅らせたり取りやめたりできる権限だ。グーグルをはじめ多くの企業は、製品を正しく管理するためには、UXとデザインの基準をトールゲートのような正規の製品管理プロセス(つまり、シックス・シグマのようなプロセス)に組み入れる必要性を認識し始めている。

5.UXを顧客主導型にする
 営業チームは、顧客が何を欲しているかを自分たちが理解していると思い込んでいるが、ほとんどの場合、顧客にその質問をするのがおそろしく下手である。UXには、重要顧客とよりオープンで継続的な対話を促進する時間と余地が必要となる。その際に、プロトタイプやデザイン・アーティファクト(デザインのプロセスにおいて生成されるさまざまなドキュメントやリソース)が役に立つ。こうした対話によって、顧客との信頼を築きロイヤルティを高めることができるが、営業チームを説得し協力を取り付けるのは難しいかもしれない――外部のコンサルタントにとっては特にそうである。企業のデザイン・リーダーも、営業チームを説得するような手腕を身につけていないことが多い。デザイン・リーダーは執行者というよりは、外交官に近い人々だ。彼らが重要顧客をデザイン・プロセスに巻き込んで優れたUXを生み出すためには、経営幹部と緊密に連携して進める必要がある。

 以上を見ると、複数の戦略に共通する要件があることがわかるだろう。経営幹部の関与、顧客の参加、新たなプロトタイピング技術、そして小規模の職能横断的なチームだ。こうした要件はどれも、UXのためだけでなく、ボトムアップ型でリスクをいとわない文化を築くために、そして21世紀の市場で勝ち残るために欠かせないものだ。上記の要件は、UXが成功と価値創造のカギとしてますます重視されているスタートアップ市場では、すでに標準となっている。この業界に現れた新たなタイプのビジネスリーダー、たとえばツイッターとスクエアの共同創設者、ジャック・ドーシーなどは、(従来の)要求駆動型でウォーターフォール型の開発プロセスをよしとせず、「はじめにUXありき」と考える。同様の能力を、トップダウン型の文化を持つ伝統的大企業にどう根付かせるか――これが大きな課題である。それを成し遂げる企業こそ、破壊的ビジネスの最前線に躍り出るか、破壊的イノベーションの時代を生き抜くことができるであろう。

 

HBR.ORG原文:Scaling Your UX Strategy January 7, 2013

 

ロバート・ファブリカント(Robert Fabricant)
デザイン・コンサルティング会社フロッグ(frog)のクリエイティブ担当バイス・プレジデント。