上司が部下に職務上の要求や期待をするのは、当然である。しかし、その逆もまた真であることを認識しているリーダーは稀であるという。すべての従業員が上司に求めるべき、4つの能力とは何か。


 あなたが今、部下の業績評価を行っているとしよう。ある大規模なプロジェクトが、期待はずれの結果に終わった理由を尋ねているところだ。

「失敗した理由ですか……」と部下は口火を切った。「いろいろありますが、しいていえば、あなたが私たちの求めに応えてくれなかったことが最大の理由だと思います。他のグループ の協力も必要だったのですが、彼らはまったく関心を示してくれませんでした。実際、彼らは私たちが何をしているのか、そしてそれがどう彼らの役に立つのかさえ、わかっていませんでした。加えて、私たちにはきちんとした戦略も計画もなく毎日がその場しのぎでしたし、何を重視すべきかについて、あなたは毎日考えを変えているように見えました。ジャック(あなたの上司)はプロジェクトを全然理解していなかったので、彼に頼んでもサポートを得られませんでした」

 あなたは、この発言にどう反応するだろうか。頭のどこかで、こう考えるのではないだろうか――「この発言はおかしい。上司への反抗だ。評価の対象は私ではなく彼なのに。これは道理に反している」

 そう思うあなたは、間違っていない。通常はこのようことは起こらない。我々の知るほぼすべての組織において、他者へ職業上の要求を行う権利は上から下へと一方向に行使される――組織階層における権限と同じように。

 要求する「権利」、という点に注目してほしい。誰しも、自分より上の階層にいる人たちへの要求や期待を抱いているはずだが、それらが認識されることはめったにない。そうした要求を持つ「権利」となると、まったく認められていない。

 このことに、疑問を投げかけてほしい。我々はなにも、従業員が上司に対して抱く期待がすべて妥当なものであるとは考えていない。それらの多くは、考えが甘く、利己的で、グループの機能を妨げるものだ。しかし上司と組織、そしてすべての従業員が認めなくてはならない権利が1つ存在する。

 人には、優れたマネジメントの下で働く権利がある。

 これは決して新しい発想ではない。ローマ時代からすでに、兵士には有能な指揮官を望む権利があると言われていた。それと同じように、部下にも有能な上司の下で働く権利があり、有能であることを上司に期待すべきである。従業員は、与えられた任務の遂行に最低限必要なツールと資源を求める権利があるが、優れた上司を望むのもその一環である。そして、あなたが部下との話し合いで相手に何を期待するのかを告げるのと同じように、部下にも、上司に何を期待しているのかを直接伝える機会が与えられるべきである。

 あなたはおそらく、こんなふうに考えるのではないだろうか――「理論上はそれでもいい。でも、“優れた”マネジメントとは何なのか、誰にわかるというのだ。このテーマについて、いままで膨大な数の文献が記されてきたというのに」